四
さて、子柳がちょうど二十歳のときでございました。会稽郡を治める長官に楚興義という硬骨漢がおりまして、かねてより子柳の高名に惚れ込み、何とかして自分の婿として迎え入れたいと望んでおりました。
長官の娘と結婚すれば、貧しい生活とおさらばでき、母親に楽をさせられます。そして望めば――役人、官吏として、政治に携わる道が開けるのです。
学問に励む知識人にとって最高の目標は、政治的な成功を収めることにありました。そして功成った後は潔く身を退き、故郷で悠々自適の生活を送る。
これこそが古来より理想とされた処世なのです。当然子柳もその例に漏れることなく、己が才を存分に発揮できる機会が来ることを夢に描いていたのでした。
楚興義からの縁談は、子柳にとってまさに渡りに舟、喉から手が出ても何の不思議もありません。しかし子柳はこの縁談に難色を示したのです。
それは自負によるものでした。また学問によって身につけた高潔さによるものでした。子柳は自らの実力でもって夢を叶えたかったのです。しかし悲しいかな、彼の家は貧しさに喘いでおりました。官吏登用試験を受けに、都長安に遊学することなど夢のまた夢でありました。
しかし、楚興義の話を受ければ、事情はまるで変わってきます。彼には若さと才能、車の両輪といえるものが揃っているのです。そこに有力者の支援が加われば、千里万里の彼方まで駆けていくことも可能になるのです。
子柳は板挟みになりました。塞ぎ込んだまま一日を過ごすこともありました。食事も喉を通らず、学問が滞ることもありました。
母親はそんな子柳を密かに心配しておりました。我が身を切られるように感じていたのです。縫い物をしながら、そっと涙することもありました。しかし彼女は気丈でした。そんな素振りなどおくびにも出さず、毎日子柳の面倒を見ては、ときには優しく励まし、ときには厳しく叱責したのです。
世人は母を「これぞ賢婦の鑑」と称え、親指を立てない者はおりません。
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