第13話 入学試験 その2
「ふんふん……えぇ~何? 数値五桁後半を出した奴が出た~? あぁそう。まさか
通話を終了した男は、受話器を置いた。
「今年の世代は……アリシア様の言った通り、カオスになりそうだなぁ~」
そして、そうポツリと呟くのだった。
◇
あの後もマナ測定は滞りなく進んだ。
受験者は全員測定が終了し、説明があった会場へと戻ってきていた。
「第一試験は無事終了した! それでは、これより第二試験へと移行する! 場所は玄武の間、白虎の間、青龍の間! それぞれの場所に1グループずつ入り、試験を行ってもらう」
グループは第一グループから第十グループまであるらしい。
そして1グループ試験が終わる毎に入れ替わりで次のグループが入るという事か。
「では第一グループから第三グループまでは担当の試験官に従い移動せよ!」
ガルムがそう言うと、担当の試験官がグループの前に立ち指示を始めた。
「はい! 第三グループ担当のミラン・ソウイです! 本日皆さんの試験官を務めさせていただきます、よろしくお願いします!」
俺達を担当する試験官は若い女だった。
恐らくまだ入って一年か二年そこらの雰囲気が口調や様子から見て取れる。
「それでは私に付いて来て下さい!」
……この第二試験が俺の合否を決める。
うむ! やはり、悪くない危機感だ! 楽しませてもらうぞ……!
担当試験官のミランに従い、俺を含めた第三グループは案内先まで歩き始めた。
◇
俺達第三グループが担当教員に連れてこられた先は、青龍の間。
見栄えとしては闘技場のような感じだ。
そこには大きな障害物がいくつもある。
「第二試験は『
ふむ……。
試験内容は理解出来た。
しかし、そこには問題があった。
「あ、あの……?」
そこで、俺ではない受験者の一人が手を挙げた。
「はい、何でしょうか?」
「え、えと……。どう見ても、その岩が無いように見えるのですが……?」
その通り。
岩が無いのだ。
「はい、そうですね」
だが、その質問に何一つ動じる事無くミランと言う名の試験官は答える。
「質問にお答えします。現在この第三グループの人数は二百名、あなた方の内四人が戦闘不能になった時、場内に岩が一つ追加されます」
……なるほどな!
「え、そ、それって……どういう……?」
「察し悪いなぁ~お前」
すると、そこに質問した受験者を馬鹿にするようにもう一人口を挟む者がいた。
「つまり……この入学試験は第一試験と第二試験を加味した結果で判断するが、この第二試験単体の場合……可か不可しかねぇって事だろ?」
「……」
ミランは何も答えない。
だが、その表情が何もかもを物語っていた。
「それでは、今から第二試験を開始します!」
そう言って、ミランは姿を消した。
「え……?」
「い、一体何処に?!」
数人の受験者は慌て始める。
だが、俺は消えたミランをしっかりと補足していた。
「あそこか」
見れば、この会場は観客席の奥が何かの技巧を施した特殊ガラスで囲まれている。
普通の人間ならば見えないだろうが、俺にはしかと見える。
ガラスの向こう側に、ミランともう一人男がいるのを。
「ど、どうするんだよ……」
「ど、どうするつったってお前……」
突然の状況に、他の受験者は狼狽え始める。
「おいおいおいおいおい! 話……じゃねぇや、あの沈黙を聞いてただろぉ? 要は俺の言った通りじゃねぇか!」
その狼狽えの中、先程口を挟んだ男が同じように言葉を発した。
ふむ、さっきから口調が野蛮な男だな。
もう少し俺のように高貴に振舞えないのか?
「だからよぉ……!! 楽しもうぜぇぇぇぇ!!!」
そう言って、男は地面を殴った。
殴られた地面は男を中心に割れるように破壊され、周囲にいた人間たちはたちどころに吹き飛ばされた。
とりあえず、俺も吹き飛ばされておくか!
正直な所、この程度の風圧全く以て問題無いが飛ばされるのが楽しそうだったのでおとなしく自然の法則に従う事にした。
この第二試験……間違いなく受験者を振るいにかけているな……。
さてと、どうするか!
俺は地面に華麗に着地を決めると、周囲を見渡した。
流れるのは沈黙、あの男の攻撃によって全員が場内に散り散りになり出方を窺っている。
いや……、
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
既に始まっているな!!
受験者であろう人間の叫び声が、場内に木霊する。
それが、受験者全員に覚悟を決めさせた。
「ん?」
戦いの始まり。
その瞬間、俺の周囲を土煙が覆う。
「これは確か
砂塵が舞う中心地で、俺は呟く。
「ふむ」
俺の視界を遮り、その隙に攻撃をするという魂胆……単純だが悪くない。
「まぁ関係ないがな!」
俺は砂塵を消し飛ばし視界を鮮明にする。
「なっ!?」
晴れた視界、そこには攻撃のタイミングを窺っていた敵が存在した。
「悪いな」
俺と敵との距離は三メートル、その距離を埋める事無く……俺はデコピンの風圧で敵を壁に叩きつけた。
「がはぁ……!?」
「これで後三人……いや、後二人倒れれば岩が一つ出現するのか」
周囲では先程の静寂が嘘のようだ。
人間の叫び声やスキルを使用した事による攻撃の余波が会場にひしめき合っていた。
そして、地面から一気に四個の岩が出現する。
大きさは直径にして三メートルから四メートル、立派な『岩』だ。
『うぉぉぉぉぉ!!』
皆は一斉に岩に向かい走る。
計算すればこの第二試験、このグループ内で『可』がもらえるのは二百人中五十人にも満たない……必死になるのも理解出来る。
しかし、奴らにとって今の段階でそれは悪手だ。
「っ!? うわあぁぁぁぁぁ!!!」
当然、岩に向かって走った者を狙う者が現れる。
まだ岩周辺は安全ではない。
もっと人数が減らなければああいった行動は取れないだろう。
しかし俺はこの時……同時に、例外があることに気付く。
「
真っすぐに放たれた一閃、それが岩の中心を抉り……真っ二つに岩を割った。
『第三グループ、タロン・ムーガ。『岩壊』完了』
会場のスピーカーから、そんな声が聞こえる。
「……」
初めて岩を破壊したタロンと呼ばれた男は、涼し気な表情で会場の出口へ歩いて行った。
そう、あれが例外である。
遠距離攻撃……岩に近付く必要が無く岩を破壊するという条件を満たせる者は早々にこの試験を突破する事が出来る。
しかし、見るとあの岩には何かのスキルでコーティングがなされている。
生半可な遠距離攻撃では破壊どころかヒビを入れる事すら難しいだろう。
この場にいるほとんどの者は近距離から武器での攻撃やスキルを放つしかない。
よって、今のような荒業が出来るのは奴のような例外だけだ。
ふっ……、まぁ俺もその『例外』だがな!!
当然俺も奴のように一瞬で第二試験をクリアする事が出来る。
しかし! それでは面白くない!!
この試験は先程のようなイレギュラーは発生しない。
ならば俺は、この試験を……最も高い難易度で突破してやろう。
『魔王』として、それくらい出来なくてはな!!
「っ!!」
「……?」
俺がそう誓った直後、何者かが俺に向かい攻撃を放ってきた。
このスキルは空気が膨張してしまうため、小さく圧縮して飛ばすのは中々難しい。
だが今の圧縮した空気の大きさ……悪くない。
まぁ当たらんがな!
空圧撃を難なく避けた俺は男に向き直る。
「へぇ……今の避けんのか。やるなぁお前、名前は?」
「人に名を尋ねる時は先に名を言え!」
全く、礼儀を知らんのか!
「あん? 俺の名前はナスカル・ランゴ」
「ナスカルか。俺の名はイブルだ」
「家名は?」
「そんなものないぞ」
「マジかよ。ならてめぇ平民か……よくこの試験受けれたな!」
「ふん! 俺に掛かれば容易い事よ!」
俺は胸を張って言う。
「ハハハハハハハハ!! 何だよその自信!! 面白れぇ奴だなお前!!」
「ガハハハハハハハ!! お前こそ!! その物怖じしない態度気に入ったぞ!!」
決めた。
俺は定める。
「へへっ、決めたぜ」
どうやらナスカルも何かを決めたようだ。
「てめぇ……このグループの中で一番つえぇな? だからよぉ、てめぇを倒して俺はこの試験……突破してやるよ!!」
「奇遇だな!! 俺も同じことを考えていた!!」
「ハハハハハハハハ!! マジかよ気が合うなぁ俺ら!!」
「そうだな!!」
俺は傲慢ゆえの笑みを。
ナスカルは享楽ゆえの笑みを浮かべる。
「なら早速……行くぜぇぇぇぇぇ!!!!!!」
そう叫び、ナスカルは俺に突っ込んできた。
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