第28話 模擬戦直後
観客席は唖然、茫然、驚愕に包まれていた。
「お、おいアイツ勝ちやがったぞ……!!」
「すげぇ!! どうなってんだよ一体!!」
そんな言葉があちこちで聞こえる。
当然だ、絶対に勝てないと確信していた戦いの行方が有り得ない形で決着したのだから。
「やった~! イブっち勝ったよ!! すごかったねテディ!」
そう言ってミューは隣に座るテディの肩を揺する。
「……嘘、だろ……」
テディは他の者達と同じように茫然としていた。
確かに彼はイブルに少しばかり可能性を感じていた。
だが、実際それを目にした時……人は受け入れられないものである。
今彼は思い浮かべていた。
今までの微かに見せていたイブルと言う男の片鱗を。
『
入学の第一試験で彼がマナ測定器を破損させゼロ点を叩き出した事。
そんな彼が何故か試験に合格し、同じ学院に通っている事。
そう言った不可解な事実の辻褄が繋ぎ合う。
「……っ」
そして、ようやく現実を受け入れたテディは、何とも言えない思いが込み上げて来た。
◇
「強いですね。彼」
観客席で、シスはフィールドで行われた戦いを見ていた。
「うん……そう言えばカーラ達は?」
エヴァは他の推薦入学者たちの所在を聞く。
「カーラさんは外せない用事があるようで、ウルバさんとバンゴさんはトレーニングです」
「そう」
エヴァは短くそう答えると勝者となったイブルを見た。
「戦いたいのですか?」
それを聞いたエヴァは首を曲げてシスの方を向く。
「何で?」
「根拠はありません。ただ、そう思っただけです」
「別に、そもそも私は戦いとか……面倒な事は好きじゃない」
「そうなのですか?」
「うん。あんなのただ、疲れるだけ」
「疲れるだけで済むのは……あなたが強者だからですよ」
「知ってる」
「あら、それは失敬」
淡々と答えるエヴァに、シスはそう言って微笑んだ。
◇
「さて、と」
模擬戦を制したイブルは観客席に向けて声を上げる。
「見たか貴様ら!! この俺が、ゴールドクラスの人間を下す様を!!」
観客席は未だ静寂だ。
しかし、そんな事は関係なく言葉を続けた。
「『天職』が何だろうが関係ない!! それを生かすも殺すも、お前たち次第!! だから諦めるな!! 貴様らはここまで教育を受けて来たのだろう? ならば、これからも鍛錬に励み高みを目指せ!! それが、貴様らが成長する唯一の方法だ!!」
高らかに俺は言い放つ。
すると、観客席から大きな歓声が放たれた。
ガハハハハハハハ!! 『無職』の俺が『騎士』に勝った事で少しはシルバークラスの連中も士気が上がるだろう!!
それに負けじとゴールドクラスの連中も一層努力するはずだ!
これでその内、幹部候補と言える力を持つ者が現れるはず!! 最初は天職が無いと少し落ち込みはしたが、それすらも逆手に取り自らの目的を叶えるための肥やしにする…!! 何と聡明な男なのだ、俺!!
俺は自分の知性に酔いしれる。
そして、観客席にいるネスティに笑みを向けた。
◇
流石です、イブル様。
観客席から主の戦いぶりを見届けていたネスティ。
主がその力を周囲に知らしめた事が彼女はとても誇らしかった。
そして彼女にはもう一つ感激した事がある。
『断る! ネスティは俺のモノだからな!!』
「……///」
イ、イブル様にあんな風に言ってもらえるなんて……私はなんて幸せなんでしょう。
先程のイブルの台詞を何度も脳で反芻しながらネスティは顔を緩ませる。
こうして、見ていた者達に様々な思いを抱かせながら、イブルとニヒルの模擬戦は幕を閉じたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます