第27話 模擬戦:イブルVSニルト
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
剣を握ったニルトは真っすぐに俺に突撃してくる。
「『
ニルトはスキルで自身の肉体を強化すると俺に剣を振り下ろした。
「よっと」
俺は難なくその攻撃を持たされた剣で受けながす。
「はははは! 僕の天職は『騎士』!! 魔法型、武術型、耐性型のスキルを高水準で扱える者が選ばれる天職!! 貴様如きが僕の攻撃にいつまで耐えられるかな!!」
「それはすごいなー」
棒読みで俺はニルトの剣を次々に
正直とてもつまらなかった。
入学試験の時、ナスカルの剣を避けていた時は中々に興が乗ったのだが目の前のこの男にはその感情すら湧かない。
「どうだい? 今ならまだある条件を受け入れれば君は傷つかずに済むが?」
突然どうしたのだコイツは?
そう思ったが一応聞いてやる事にした。
「何だその条件は?」
「ネスティを開放するんだ……。何故か分からんが、彼女は君に執心している……。君の口から彼女に別れを切り出すんだ」
「なるほど、貴様ネスティに恋慕の情を抱いているのか」
「彼女は美しい……加えてあの才能……。平民にしておくのはもったいないくらいだ……! 彼女は僕が管理してこそその輝きを増すのさ!!」
ニルトの刃が俺の刃に強く押し込まれる。
「で、どうだい?」
「どうだい……と言われてもな」
答えは決まっていた。
「断る! ネスティは俺のモノだからな!!」
「……そうかい。ならば当初の予定通り、惨たらしく死ぬといい!!」
後ろへ跳躍し、自ら距離を取ったニルトは剣を上に掲げその刀身に風を集約させ始めた。
「お、おいアレ……!」
「あんなスキル、シルバークラスの奴が防げるわけが無い……!」
観客の人間達のそんな声が聞こえる。
「はははは、ニルト様の大技だ!」
「あれでは暫く治療所から出られまい! これで留年は確実だな……!」
一方で、そんな声も聞こえて来た。
「僕の提案を無下にしたんだ。後悔するなよ……!!」
周囲の大気がみるみる内に、ニルトの剣に収束されそこには竜巻が発生していた。
「
そしてニルトは、その剣を俺目掛けて振り下ろす。
地面の砂を巻き込みながら、巨大な竜巻が俺に向かって放たれた。
「それがお前の大技か」
「『騎士』になってから習得したばかりのスキルだ!! 光栄に思え!!」
「ほう……」
そうか、これが大技か……。
俺は黙って目を瞑る。
そして、その攻撃を受け入れた。
◇
「お、おいまともあの攻撃を食らったぞ……!?」
「死んだんじゃないのか!?」
「流石ニルト様! なんて素晴らしい技だ!」
「一撃でフィールドが消し飛んだ! これであの忌々しい男も消え去っただろう!」
様々な声が聞こえる中、ニルトの攻撃によって生じた土煙が徐々に晴れる。
そして、奴らはその光景を目にして唖然とした。
「ふぁ~……」
欠伸をしながら、俺が立っているというその光景に。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???』
そんな驚きの声が場内に響き渡る。
「ば、バカな……! 何故無傷なんだ……!?」
「有り得ない……!! 『騎士』であるニルト様の一撃だぞ……!!」
「何なんだよアイツ……!?」
動揺している人間たちの声を耳に入れながら、俺は頬をポリポリと掻いた。
「は、はは……一体、何をした……?」
「何をした? いや、言ってる意味が分からんが」
ニルトに俺は言う。
「とぼけるなぁ!! 僕の最大の一撃だぞ!! 無傷で済むわけが無いだろう!!」
必死に口を開くニルト、どうやらこの結果に不服のようだ。
全く困ったものだ。
というかこっちにも言いたい事がある。
そう思った俺は少し息を吸い込むと大声で叫ぶ。
「つまらぁぁぁぁぁぁん!!」
「なっ……」
俺の魂の籠った声にニルトは目を見開いた。
「何だ今のは!? いい加減にしろ!? 弱いだけならまだしも、つまらないは本当に良くないぞ!!」
「な、何を言っているんだ……!! お前は……!!」
「言葉通りだ!! あまりにも興が乗らん!! 最後の攻撃など最早避けるのも億劫になったわ!! 反省せい!!」
俺は剣でニルトを指し示しながら説教をする。
「ふ、ふふふふふふざけるなぁぁ!!!」
次の瞬間、彼は再び剣を握りしめて俺に斬り掛かって来た。
受け入れる事の出来ない現実に顔を歪ませながら、先程はまだあったといえる技術が完全に消失した非常に醜い攻撃を俺に繰り出す。
「僕が!! お前のような劣等生に!! 負ける訳がぁ……!! 無い!!」
むぅ……、これが王都の貴族か?
王都も大変だな。
俺は今後の先行きに不安を覚える。
まぁよい。
さっさと終わらせ、当初の目的を果たすとするか!!
ある意味苦痛だったこの戦いを終わらせる事に激しい喜びを覚える俺は、次に来るニルトの攻撃に一切動かなかった。
「馬鹿め!! 自ら隙を作るとは!! 死ねぇ!!」
とても模擬戦とは思えない形相で、本当に俺を殺す気でニルトは剣を振り下ろす。
「……は?」
「……うむ、まぁ……こうなるな」
ニルトの剣は俺の左肩に接触したが、それまでだった。
俺の肉体は出血もしないどころか、そもそも肉体がニルトの刃を通さない。
「な、な……」
ニルト自身の手が震えているのが剣の刀身を伝って俺の肩に伝わる。
「よし、終わらせるか」
俺は持っていた剣を地面に突き刺す。
そして、倦怠感溢れる拳を握った。
「っ!?」
流石に俺の偉大さを感じたのだろう。
慌てて距離を取ろうとするニルトだったが、もう遅い。
「ほれ」
俺はかなり弱めにパンチを繰り出した。
「っがほぉ……!!??」
するとニルトは間抜けな声を上げ、十数メートル先の壁にめり込んだ。
「バ……馬鹿な……。『
「何、そんなもの使っていたのか? 全く感じなかったぞ」
口から血を噴出しながら、信じられないと言った表情を作るニルト。
彼はめり込んだ壁から解放されると、そのまま流れるように地面に倒れ込んだ。
「……しょ、勝者……イブル!!」
立会人の教員も信じられないと言わんばかりの混乱した様子だった。
うむ。
何だろうな……、勝った気がせん。
というかあんまり嬉しくないぞ……。
ある意味苦い勝利の味を噛み締め、俺は大きな欠伸をした。
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