第26話 模擬戦直前
翌日、ニルトの取り巻きが俺に場所と日時を伝えた。
場所は第二訓練場、時間帯は放課後。
既に立会いの教員も確保済みとの事だ。
特に不都合の無かった俺はそれを受け入れる。
そうして、一週間後が経過した。
◇
「本当に始まるのかよ……」
第二訓練場の観客席からテディはそんな声を漏らす。
「そうだね~」
隣に座るミューはそう言って既にフィールドに立っているニルトを見た。
訓練場は円形になっており、フィールドを観客席で囲む形になっている。
「それにしても結構観に来てるんだな」
テディはそう言いながら周囲を見渡した。
そこには銀章金章問わず多くの生徒が見物に来ている。
「シルバークラスとゴールドクラスの戦い何て珍しいだろうからね~。物珍しさで来る人と、面白半分で来ている人がほとんどだと思うけど」
『全く、シルバーがゴールドに勝てるわけ無いだろうが……』
『わざわざ恥を晒すなよ……』
と言った生徒の声と、
『ニルトさんに挑むなんて馬鹿の極みだな』
『手も足も出ずに負けるのが目に見えている。ボロボロにやられるの落ちだろう』
『しかも相手は入学式で『剣聖』に大見得を切った不届き者だ。どんな無様を見えてくれるのか楽しみだよ』
そんな生徒の声が聞こえる。
「はぁ……胃が痛くなってきた……」
「テディ自分の事じゃないのに随分心配してるね? やっぱりこの一週間で仲良くなったからか~」
「か、勘違いするなよ……。別にアイツの事が心配な訳じゃない……、同じシルバークラスの人間が勝てないって分かってる戦いを始める事に絶望してるだけだ……」
「まぁテディが良いならそれでいいけどね~。でも、イブっちならやれそうって思わない?」
「何言ってんだよ……思う訳ないだろ……あんな馬鹿がどうやってニヒルに勝つんだよ……」
吐き捨てるように、テディは言う。
「ん~? でも本当はそう思ってないんじゃない?」
「っ!? な、何を根拠にそう思ってんだよ……」
明らかに動揺したテディはそれを隠そうとする。
『俺が、最強だからだ!』
……馬鹿馬鹿しい、何を馬鹿な事を考えてんだよ俺は……。
一週間前のイブルの言葉を思い出し、テディは自虐する。
そう、テディは少し期待していた。
自由奔放で傍若無人……だが何処か底の見えない器を見せる男に、一抹の期待を乗せてしまっていた。
どう考えても無理なのは分かっている。
あんな言葉嘘に決まっている。
だが何故か、彼に可能性を感じてしまっていた。
「あ、イブっち来たよ!」
「っ!!」
ミューの言葉にテディはフィールドを見た。
そこにはいつもと変わらぬ様子で歩くイブルの姿があった。
◇
「来たか」
俺が訓練場へ入場すると、そこには既にニルトと立会人であろう教員がいた。
「おぉ! 先に待っているとは殊勝な心掛けだ!! 褒めてつかわす!!」
そう言うと俺はニルトと数メートル程距離を保った場所に立つ。
「観客の数も悪くないな!! 奴らの目に俺の勇姿を焼き付けてやろう!!」
「減らず口を叩くなよ……。これから貴様を地べたに這いずらせてやる」
「ガハハハハハハハ!! やってみろ!!」
俺はニルトに満面の笑みを向ける。
「双方挑発は控え、位置に付きなさい」
すると立会人の教員が冷静に俺達を諭した。
教員の言った「位置」とは地面に引かれていた線の事だ。
二本の線が十メートルほどの間隔で存在しており、俺とニルトはそれぞれの線の上に立つ。
静寂、俺とニルトだけではない。
周囲の観客達も誰一人として言葉を発する事無く、立会人の合図を待っていた。
「それでは、これより……ニルト・ヒューグ、イブルの模擬戦を開始します。両者構え!」
立会人の言葉に従うように、ニルトは腰に携えた剣を抜く。
俺も一応腰の剣を抜いた。
ちなみにこれは何も持たずに行こうとした俺にテディが無理やり持たせたものだ。
本当にいらないのだが、ものすごい形相でテディに睨み付けられたためこうして持つ事を余儀なくされたのである。
「……始め!!」
テディとのやり取りを思い返していると、教員のその声と共に戦いの合図が為された。
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