第14話 入学試験 その3

「ハハハハハハハハ!!!」


 ナスカルは腰の剣を抜くと俺に斬り掛かって来た。


「いくら武器の使用が許可されていても、これでは下手したら死ぬぞ!」

「てめぇを信頼してんだよぉ!! その証拠に、てめぇ何にも動じてねぇじゃねぇかぁ!!」


 俺が全ての斬撃を避ける様を目にしながら、ナスカルは吠える。


 中々筋が良いな、剣はコイツの主力武器か。

 肉体が剣を振るために鍛え上げられている。


 ナスカルの剣の振り方を目視し、俺は洗練された肉体とその精神性に目を付ける。


「中々やるな! 俺がこちらへ来てから見てきた者の中で恐らく三番目に強いぞ!」

「はっ!! 三番目かよ!! なら一番目に強いって言わせねぇとなぁ!! 雷電躯体らいでんたいく!!」


 肉体に電流を纏わせたナスカルの攻撃速度が速まる。


 ……遅いな!


 中々やるとは言ったが、それは俺を基準にしてしまえば赤子も同然だった。

 先程よりも予備動作を少なくして、剣を避け続ける。


「カァァァァァァ!!! マジかよこれも避けんのかてめぇ!?」


 一旦俺から距離を取るナスカル。

 その後呼吸を置かずに次のアクションを起こした。


「とっておきだ!!」


 そう言って、ナスカルの剣の刀身に雷を纏わせた。


迅雷恕破じんらいどっぱかく!!」


 ナスカルは刀身を地面に突き刺す。

 すると刀身の雷が上空へと収束し、人の形を模した雷の巨人がナスカルの背後に出現した。


「らあぁ!!!」


 地面から剣を抜いたナスカルは俺との距離を保ったまま腕を振る。

 だが今の距離では当然、彼の攻撃は届かない。


 しかし、そうではなかった。


 背後に出現した雷の巨人がナスカルの腕と呼応するように腕を動かし、俺に向かって拳を放ったのである。


「面白いスキルだな!!」

「言ったろ、とっておきってな!!」


 得意げにナスカルは笑みを作る。


「さぁ!! どうする!!」

「ふむ……」


 迫りくる拳を見ながら、俺は思考した。


 正直な所、避けるまでもない。 

 三番目に強い、と俺は言ったが……二位と三位、つまりネスティとナスカルの間には雲泥の差がある。


 先程の剣による攻撃も含め実際の所……俺に傷をつけるのは不可能だろう。

「避ける」という動作は興が乗っているから行ったまでの事だ。


 最も高い難易度でこの試験を突破すると勇んだものの、これではあまり意味が無いな!


 そう思いながら、俺は手を広げ前に突き出した。


「はぁ……!? おいおいまさか受け止める気かよ……!!」

「その通りだ! 来い!!」

「舐めてんなぁ!!いいぜぇ、吠え面かかせてやるよぉ!!」


 ナスカルの激情に反応するように巨人の攻撃は速度が増す。


 そしてコンマ数秒後、俺の手の平と雷の巨人の拳が触れ合った。


「……はぁ?」


 俺がもたらした光景に、ナスカルは信じられないものを見たような表情を見せる。


 まぁ無理もない。

 とっておきの攻撃が、こうも容易く受け止められたなどと言う現実は直視したくないだろう。


崩壊クライシス


 巨大な拳を手のひらで受け止めた俺はそのままスキルを放ち、俺が接触している部分から雷の巨人の体を破壊していった。


「……」


 雷が大気へと四方八方に散り散りとなった事で、ナスカルの動揺はさらに加速する。


「ハハハ……マジかよ」


 乾いた笑いを浮かべながらも、彼は俺の眼をしかと見た。


「今ので全力か?」

「……あぁ、あのスキルは俺の体内のマナを全部使う……もう、使えねぇ」

「そうか!」


 やはり強すぎるな俺。

『グループ内で最も強い敵を倒す』と自分の中で定めてもあまり難しさが変わらなかった。


 俺はナスカルを見ながら物思いにふける。


「おい……!!」

「ん、どうした?」


 すると、ナスカルが俺に話し掛けて来た。


「何で……早くトドメを刺さねぇんだ?」

「あぁ、その事か」


 試験を円滑に進ませるためには、奴の意識を失わさせるのは急務と言える。


 だが、


「ふん! 負けたのにトドメをさせだと? 烏滸おこがましいぞ貴様!!」

「っ!?」


 俺の言葉に、ナスカルを目を見開く。


「良いか、敗者をどうするか……その権利は勝者である俺にある! よって、決めたぞ!! 俺はこれ以上お前に手を出す事は無い! ではな!!」

「はぁ!? ふざけんなよ!! 何で……!!」


 納得いかなかったのか、ナスカルは食い付く。


「言っただろ。お前は俺がこちらへ来てから三番目に強いと! その言葉に嘘偽りはない、だから励むが良い!! 俺の気が向けばまた相手をしてやろう!」

「……」


 踵を返して歩き出す俺に対し、最早ナスカルは何一つ言わなかった。



「……ハハハ、何だよアイツ」


 イブルが去った後、ナスカルは茫然と立ち尽くしていた。


『俺の気が向けばまた相手をしてやろう!』


 だがそんな状態でも、イブルのその言葉がナスカルの頭をグルグルと回り続けていた。

 

『ふん! 負けたのにトドメをさせだと? 烏滸おこがましいぞ貴様!!』


 烏滸がましい……か。


 その時、


「チャンス……!! 今なら……!!」


 先程の戦いによって憔悴しているナスカルを狙う受験者が現れた。 

 彼の背後を取り、その距離は既に五メートルを切っている。


「決めたぜ……イブル!!」


 先程の獲物を求める……生気に溢れた目に戻るナスカル。


 俺は絶対てめぇに再戦を申し込む……!! そのためにぃ!!


「っ!?」

「勇者学院……ぜってぇ合格してやるぜぇ!!」


 振り返ったナスカルは彼を狙っていた受験者の顔面に、拳を叩き込む。 

 

「ごぉああぁぁ!!??」


 第二試験不合格の叫びが、場内に轟いた。



『第三グループ、イブル。『岩壊』完了』


 そんなアナウンスを耳にしながら、俺は会場を退出する。


 ふん……何か好かんな。

 見られているからか?


 厚い窓ガラスの奥から感じる視線を背中から受けながら、俺は青龍の間を後にした。



「全く……今回の第二試験、乱暴すぎませんか? オーパスさん」


 ミランは隣に立つオーパスと呼ぶ男にそう問いかけた。


「そうか? 受験者同士の競争心と抗争心をくすぐってここまでで鍛え上げた力をふんだんに出せる良い内容だと思ったんだがな」

「そうかもしれませんけど……明らかにやり過ぎです。戦闘不能者を出す試験なんて……」

「甘いなお前は。アリシア様の予言を、お前も知っているだろう」

「そ、それは……」

「この第二試験は他者との戦闘を行う。そこには当然疑似的な『死』の感覚が付きまとい、更に奴ら受験生にはこれが試験で、合否が掛かっているという緊迫感と緊張感が上乗せされる。この程度、乗り切ってもらわねば困るんだよ」

「……」


 オーパスの言葉に、ミランは何も言い返す事が出来なかった。


「それに、アリシア様の言った通り今年は面白い奴らが多くいる」


 彼は先程のイブルとナスカルの戦闘を思い出す。


「……今年の一年は、面白い事になりそうだ」


 そう言って、オーパスは笑みを作る。



「おぉネスティ!」

「お疲れ様ですイブル様」


 第三グループの第二試験が終了し、早二時間程が経過。

 第六グループに配属され、同じように第二試験が終了したネスティと合流する。


「どうだった?」

「第二試験における合格条件は満たしました」

「流石は俺の忠実なる幹部! よくやった!」

「ありがとうございます」


 そう言って敬服するようにネスティは俺に頭を下げる。

 彼女が俺に第二試験の結果を聞かないのは聞くまでも無いと理解しているからだ。



 全てのグループの第一、第二試験が終了し俺達は指定されていた席に戻っていた。

 だが全員が席に戻った訳ではない。

 先程の第二試験で意識を失った者たちは戻ってきていなかった。


 だがそんな事は関係ないかのように、副学長のガルムが再度壇上に立ち話を始めた。


みな、試験ご苦労だった。それぞれが己の力を存分に発揮し、試験の臨んだと思う! 合格者への通達五日後だ、それではこれでシュヴァリア勇者学院第千三十期生入学試験を終了する!」

 

 こうして、俺とネスティの勇者学院入学試験は幕を閉じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る