第30話 試験勉強

 俺とテディ、ミューの班が結成されて一か月。

 その間俺達は様々な任務をこなした。

 その中でテディとミューの能力も少しずつ上がり、見事な成長を遂げたと言えるだろう。


 む? それは語らないのかだと?


 そんな事していたら何時まで経ってもこの章が終わらんわ!!



「はい。皆さん、そろそろ勇者学院最初の試験が近づいてきました」


 朝、開口一番にクルスはそう言って俺達を見る。


「今年の一年生の試験内容はペーパーテストと、班別試験です」


 ペーパーテスト? 迷宮探索? 何を言っているんだ?


 クルスの言っている意味が分からず俺は首を傾げる。


「ペーパーテストは、この一か月で皆さんが座学で学んだことから出題。そして班別試験は皆さんが班を組んで一か月、大分連携が取れてきたと思うので、それを確認する意味も込めて迷宮探索を行ってもらいます」


 ほう……つまり、この一か月の集大成を見せろという事か。


 腕を組みながら俺は理解した。


「では、連絡も終わったので授業を始めます」


 そう言ってクルスは本日の授業を開始したのだった。



「班別試験で迷宮探索か~今年は凝ってるね~」

「いつもは違うのか?」


 俺がそう聞くとミューは「うん」と言った。


「班別試験は毎回あるらしいけどいつもは迷宮探索とかじゃなくて班別対抗で模擬戦闘をしたりしてたらしいよ? 迷宮を作るなんて大変だからね~」

「なるほどな」


 今年は手間を掛かっているというわけか。

 ふっ、俺を測るための試験……そうでなくては面白くない。


「班別試験はこの一か月やってきた事を信じるしかないとして、問題はペーパーテストだなぁ」

「ガハハハハハ! ペーパーテストなどただ頭を使えば良いだけの事では無いか! 実技よりも簡単であろう!」

「そう~? 最近イブっち授業中いつも寝てる気がするけど大丈夫?」

「問題ない! 俺ほどになればあの程度の学問など寝ていても理解出来るわ!」

「ほーん。なら試してみようぜ」

「いいだろう!」


 テディの提案で俺は模擬テストを受ける事になった。



「ぜんっぜん駄目じゃねぇか!?」

「これでよく「問題ない!」、なんて言えたねぇ~」

「おかしいな……俺のイメージではこんな予定では無かったんだが」


 机の上に置かれた凄惨たる点数の紙を見ながら俺は唸る。

 

 一体何故だ……。

 この俺ともあろうものが……はっ!?


 俺はある重大な可能性に気付き声を上げた。


「この問題がおかしいのか」

「おかしいのお前の頭だよ!! 現実を受け止めろ!!」

「これは一週間みっちり勉強しないとだねぇ~」

「な、に……?」


 一週間みっちり……?


 俺の頬を冷や汗が伝うのを感じる。


 俺には嫌いな事が二つある。

 一つはつまらない事。

 そしてもう一つは、


「勉強は嫌いだ!」


 勉強だ。


「いいからやるぞ! このままじゃあお前ペーパーテストの点数とんでもない事になるから!! 赤点になるから!!」

「下手したら留年なんて事もあるかもね~」

「なぁ……っ!?」


 くっ……! 机上の学問で優劣を決めるなど愚の極み!! 何故俺がそんな事を!!


「ペーパーテストで赤点回避したら何か奢ってやるか」

「任せろ!! 俺はIQ五千の男だ!!」

「本当にげんきんだよねイブっち」


 

「と、言う訳でだ。特別講師のネスティを連れて来た」

「こんにちわ。この度イブル様のご指導と言う大義を務めさせていただ事になりました。ネスティです」

「久しぶり~ネスティちゃん! あんまり会えなくて残念だよ」

「ゴールドクラスとは教室も離れているし、授業のカリキュラムも異なってるからな」


 ミューとテディは口々に言う。


 補足だが、俺とネスティは報告も兼ねて良く会っている。


「ネスティ。お前の座学の理解度はどの程度だ?」

「百パーセントです」


 とても頼もしい返事が返って来た。


「素晴らしいぞネスティ!!」

「ありがたいお言葉、感謝します」


 そんな俺とネスティのやり取りを見ていたミューはこんな事を言った。


「ねぇ、イブっちとネスティちゃんって付き合ってるの?」

「つ、付き……!?」


 その質問にネスティは激しく狼狽する。


「な、何を無礼な事を言ってるんですか! わ、私がその……イブル様と……ごにょごにょ……」


 反論したいらしいが何やらネスティの語調は弱くなる一方で後半はほとんど聞こえない。


「ふむ? 俺とネスティがそう見えるのか?」

「うん! すっごい仲良さそうだし~、でも家族って感じともちょっと違うかなぁ~って思って」


 確かに、俺とネスティに血縁関係はない。

 だが、恋人という訳でもない。


 しかし、そんな事は些末な事だ。


「ガハハハハハハハ!! 俺とネスティは恋仲、家族以上の固い絆で結ばれているぞ!!」

「ふへぇ!?」


 俺の言葉にネスティは顔を真っ赤にした。


 当然だ。

 ネスティは俺の大事な部下、それは何よりも太く厚い繋がりだろう。


「なぁネスティ?」

「……え、えーと……そのぉ……」

「む? どうした?」

「あはは~ネスティちゃん頭から煙が出てる~」


 ミューはそう言って笑う。。


「え~、でもそっかぁ~」

「ん、何がだ?」

「ううん、何でもない!」


 俺がそう聞くとミューは笑顔で答える。

 その笑みは先程よりも何処か作り物じみていた。

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