第32話 迷宮試験

「はい。それではこれより、班別迷宮試験のルールを説明します」


 場所は学院校舎の外にある広大な敷地のグラウンド、そこには巨大な洞窟の入り口が二つあった。

 片方はシルバークラス、もう片方はゴールドクラス用らしい。

 恐らく内部の難易度が違うのだろう。


「この迷宮は我々教員が約一か月を掛けて作り上げました。中には多くの仕掛けや罠、そして魔獣を潜ませています。それぞの班は一分おきにこの迷宮に入ってください。そして、皆さんには迷宮内に隠したこのプレートを出来るだけ多く見つけながら迷宮の最深部まで潜ってもらい、ここに戻ってきてもらう……それがこの試験の内容です」


 クルスはそう言って手の平よりも大きなプレートを俺達に見せる。


「獲得したプレートの枚数によって試験の成績を判定します。それでは、皆さん頑張ってください」


 ニッコリと笑うクルス。

 緊張の面持ちの生徒たちはゴクリと唾を飲み込んだ。


 何てことない試験だな。

 

 そんな事を思いながら俺は同じように説明を受けているゴールドクラスの方を見た。

 ネスティやエヴァ、他にも昨日知り合った推薦入学者の面々が俺の視界に入る。


「では最初の班は準備をお願いします」


 そして班別迷宮試験が始まった。



「次、第五班」


 暫くすると俺達の番が呼ばれる。


「よ、よし……!」

「がんばろ~!」


 気合を入れるテディとミュー、俺はいつもの調子のまま迷宮に入り口に立った。


「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ。皆さんの任務での活躍ぶりは常々聞いていますから……だからそう気を張らずに」


 クルスはそう言うと俺の肩に手を置いた。


「む? 別に俺は緊張していないが?」

「ははは。それでは迷宮試験……始め」


 俺の言葉にクルスは特に返す事をせず淡々と言い放つ。


 まぁ良いか。


 それを特に気にすることなく、俺達は教員達が創ったという迷宮へと足を踏み入れた。



「うへぇ……何か気味悪い~」


 そう言ってミューは体は少し縮こませる。

 内部はそこまで暗くなく、周囲を見渡せるレベルだが如何せん洞窟という事でそれ特有の不気味さと言うものが存在していた。


「それにしても罠って一体どんななんだろ……うなぁ!?」


 テディが次の一歩を踏み込んだ瞬間、地面に穴が開き俺達はそこから真下へと落下する。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「おぉ風が気持ちが良いな!!」


 三者三様の感想を抱きながら落下した俺達はそのまま地面へと激突した。


「ってぇぇぇぇ」

「ふぅ……死ぬかと思ったよぉ……」


 そんな声を漏らす二人。


『ゥゥゥゥゥゥゥ!!!』


 すると奥から唸るような獣の声が聞こえる。


「お、おいあれ……」


 堪らずテディが声を漏らす。

 奥の暗闇から姿を現したのは四足歩行の魔獣、数にして十匹だ。


「ま、魔獣退治はこの一か月で多少やったけど……この数は!!」

「後ろにもいるよ~」


 ミューの言葉にさかさずテディが振り返る。

 そこには同じように四足歩行の魔獣が同数存在していた。


「こんな数どうすりゃ……! ていうかいきなり難易度高過ぎだろこの試験!!」

『ガァァァァァァ……!!!』


 魔獣達は雄叫びを上げて俺達に襲い掛かる。 


「ミュー、魔障壁マジック・シールドだ!!」

「うん!」


 テディの言葉に、即座にミューは障壁を展開した。

 魔障壁マジック・シールド、単体……もしくは複数名をマナによる壁で包み込むスキル。


 最もオーソドックスな防御型スキルだ。


 張られた壁に突撃する魔獣達は、それを突破する事は叶わなかった。


火炎ブレイズ!!」


 ミューのスキルによって魔獣の攻撃を防いだ俺達。

 次いで障壁内部からテディが魔法型スキルである火炎ブレイズを放ち魔獣の半数を一掃した。


「これで、終わりだ!!」


 そう言った彼の手に突然剣が出現した。

 鍛冶師である彼の錬成スキル、武器創造クリエイト・ウェポンだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 剣を握りしめたテディはそれを大きく振りかぶり、未だ魔障壁に噛みつく魔獣達の首を切断した。


「は、はぁ……はぁ……はぁ……!! や、やった……!!」


「ガハハハハハハハ!! 少しはやるようになったではないかテディよ!!」

「お前も戦えよ!?」


 魔獣を掃討し息を切らしながらテディが俺を見る。


「この程度俺が手を貸すまでも無いだろう。では次に行くぞ!!」 

「あ、ちょっと待って~」


 先に進もうとした俺をミューが止める。


「む? どうしたミュー?」

「ちょっとね~」


 彼女は魔獣に近付くとその内部を漁り始めた。


「うへぇ……何やってんだよお前……」

「あ、あったあった~」


 何かを見つけたようで、それを取り出したミューはそれを俺達に見せつける。


「あ、プレート!」

「こういう所にもあるんだね~」


 ミューのスキル、『第六感シックス・センス』はこういった時大いに役に立つ。


「順調ではないか! 流石は俺の班!!」

「ま、この一か月お前と色々やってきたからな……」

「そうそう。それに他の班の子達だって、この一か月皆頑張ってきてるし、これなら皆大丈夫だよ!」


 いくら戦闘職に適性を見出されなかったからと言って悲観するものではない。

 それを受け入れ、前に進むこいつらはこれからますます力を付けるだろう。


「よし!! 改めて、先に進むぞ!!」


 俺の言葉に二人は頷いた。


 

 その後も順調に俺達の班は迷宮を探索し多くのプレートを手に入れた。


「ここが最奥か」

 

 俺達が到達したのは、今までよりも開けた空洞だった。


「お、おいあれ……!」


 そう言ってテディが指を差すのは、


「う、うぅ……」

「く、苦しい……」

「だ、誰か……」


 俺達よりも先に迷宮へ入ったシルバークラスの生徒たちだった。

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