概要
季節を問わず花を咲かせるこの藤には、緋の目をした悲しい鬼が棲んでいる。
唐棣(はねず)家の庭に植えられた一本の藤が「鬼憑き」と呼ばれているわけは、枯れることなく年中花を咲かせることと、藤の下に緋色の目をした鬼がいると噂されているからだ。
けれども一人娘の薄紅(うすべに)が藤に癒やされ病を克服した為、当主の蘇芳(すおう)も藤を無下に扱うことは出来ないでいた。
薄紅の前にだけ現れる鬼。藤の香に誘われてよみがえる、薄紅の知らない記憶の断片。薄紅に持ち上がった縁談話と、鬼に対する確かな恋慕。
やがて記憶は藤の香に引き戻され、薄紅は鬼が誰なのかを知る。
1ページ1300~1500文字で綴った短編です。
Twitter企画・第3回いっくん大賞にて「シナリオ構築部門」と「佳作」に選んで頂きました。
© 2020 月音
けれども一人娘の薄紅(うすべに)が藤に癒やされ病を克服した為、当主の蘇芳(すおう)も藤を無下に扱うことは出来ないでいた。
薄紅の前にだけ現れる鬼。藤の香に誘われてよみがえる、薄紅の知らない記憶の断片。薄紅に持ち上がった縁談話と、鬼に対する確かな恋慕。
やがて記憶は藤の香に引き戻され、薄紅は鬼が誰なのかを知る。
1ページ1300~1500文字で綴った短編です。
Twitter企画・第3回いっくん大賞にて「シナリオ構築部門」と「佳作」に選んで頂きました。
© 2020 月音
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!『喩え鬼とて』決して離れぬ、枯れぬその想いは藤色の夜風と共に
名家の庭に咲き誇る見事な藤の花。
枯れる事なく花を咲かせ、その下には緋色の瞳をした鬼がいるとも。誰が言い出したか、いつしかその藤は「鬼憑き」と呼ばれるようになる。
臥せった身から、その藤に癒され病を克服した一人娘の薄紅(うすべに)。彼女の前に時折姿を見せるという鬼。そして彼女の失われた記憶——。
すすす、とページをめくり進めていくように、一話ごとは短いながらもそこにしっかりと情景や人物の感情が描写されており、その手腕は本当にお見事。
またそれぞれの話のタイトルや、色彩の表現が脳裏に鮮やかに浮かび上がるように美しく纏められていて、一気に最後まで読んでしまいます。
切なく、儚く…続きを読む - ★★★ Excellent!!!狂おしい藤の香に浮かされて、娘は姿をくらませる
年中咲き誇る藤の花、白髪の鬼、夜ごと重ねられゆく密やかな逢瀬──耽美なモチーフが織りあげる幻想的な和風世界観に、虜にならずにはいられませんでした。
良家の娘とあやかしの切ない恋路を綴った本作ですが、物語そのものに妖力が宿っているようで、一文一文の美しさに耽溺します。登場人物もさることながら、何と言っても流れる情景描写が魅力的。夢中になって読み進めるうち、噎せ返る藤の香がしずかにわたしたちの肺を侵し、気づけば遅効性のあまい毒に蝕まれている。そんな読後感を覚えました。
藤棚のささめきがまだ鼓膜に残っています。儚くも鮮烈な恋の行方、胸を締めつけるようなその結末には心ゆくばかりです。
とても素敵な物…続きを読む