第15話 約束を、いま
裸足のまま庭に出ると、近付く
ゆっくりと一歩踏み出す度に、
初めて
思い合う幸せが
共に生きることを願って手を取ったはずなのに、
はらり、はらりと。
舞い散る藤の花びらに誘われて、
藤がざわめく。風が鳴く。
長い
「
そっと伸ばした手が触れるよりも先に、鬼が
「
耳元で囁かれた鬼の声音は、今まで聞いたどんな言葉よりも一番人間らしい響きを纏って零れ落ちた。
鬼への恋慕で声を持ち、記憶を取り戻す度に鬼の感情があらわになる。鬼の名を知り、鬼にまつわる自分の過去を全て思い出した
「
かつて
「胸の傷は……」
「痛みはもうない」
当たり前のことを口にして、
「お待たせしてすみませんでした」
「君が戻ってきてくれたのなら、それでいい」
生前と変わらない優しげな口調で告げると、
「おいで。付けてあげよう」
「やはり君には藤が良く似合う」
そう囁けば、あの日と同じように
さぁっと、より一層強く風が吹いた。
庭に満ちる藤の
「愛しい
はらり、はらりと。
またひとつ、役目を終えて藤が散る。
「――はい、
約束を叶えるための口づけは静かに交わされ、重なり合う二人の姿を覆い隠すように藤の花びらが一斉に夜を舞った。
それはまるで闇路を照らす鬼火のように妖しげに揺れ――やがて
この夜を境に、
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