第14話 血に濡れた文
『全部思い出して、お気持ちが変わりましたらお戻り下さい。私はここでお待ちしております』
そう言った
廊下の先に続く暗闇。僅かな月明かりさえない漆黒は、芽生えてしまった不安を助長するように濃さを増す。
その答えは、もう
答えの先に、続く未来はもう失われているのだから。
さわさわと、風もないのに藤の花が揺れていた。
***
離れの部屋は真っ暗だった。縁側に続く障子を開けると、妖しく光を纏った藤のほのかな紫が部屋の中をぼんやりと照らし出している。
鬼除けの
箪笥の一番下の引き出しを開けると、
花模様のあしらわれた手拭い。中に包まれていたのは、細工の美しい一本の藤の
『
耳のすぐ側で、
いつかの夢で見た藤の
恥ずかしくて俯いたことも。触れるだけの柔らかな口づけの感触も。
「
名を呼ぶだけで胸が締め付けられる。
所々についた黒い染みが固まって、紙本来のしなやかさを失っている。破らないようにそうっと開くと、そこには流れるような美しい文字が綴られていた。
――今宵、あの藤の下にて君を待つ。
ざぁっと、風が吹いた。
藤棚の花房を揺らし、
鬼の手に握られた文の黒い染みが、時を戻して鮮血に染まる。
『お父様! 止めて下さい!!』
黒い染みがひとつ、またひとつと赤に染まる度に、
待ち合わせた山藤の下。
追いついた
結婚の許しを乞う
叫ぶ
『
頬に飛び散った鮮血の温もりを思い出した瞬間に、はらり――と
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