第13話 常磐の思い
部屋の中には奇妙な香りが充満していた。
檜のような匂いに混ざって、すり潰した草を思わせる青臭さが少しだけ鼻を突く。ゆっくりと布団から体を起こすと、部屋の隅で何やら
「私、どうして……?」
曖昧な意識を引き戻そうとすると、鈍い頭痛が
山藤の下で藤の
庭の藤棚の下で
暴漢から
『
優しい声で名を呼ぶ青年の顔が見えない。
『
感情の見えない声で名を呼ぶ鬼の名前を知らない。
『やはり
けれどそのどちらもが、
「――
***
「お嬢様」
襖の向こうで
「お嬢様。……思い出されたのですか?」
問われて、さきほど夢に見た記憶の断片が頭をよぎる。
分家の息子、
未婚でありながら貞操を守らず、
そして
小さく、けれど確かに頷くと、
「……そうですか」
「
「お嬢様……。今この屋敷には、鬼除けの
部屋の隅に置かれた香炉から漂う奇妙な香りが、
「明日の朝には庭の藤を切り倒すようにと、いま旦那様が人集めをされていらっしゃいます」
「……っ!」
慌てて立ち上がりかけた
「お嬢様。私は……お嬢様に幸せになって欲しいのです。そして
いつか聞いた幻だと思っていた
けれど、
「ごめんなさい、
「私は
はっきりと告げた
「
動揺に揺れた
「離れにある
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