囁く声に焦がれた嬢の想いや

静かな夜、濃紫の空気に柔らかに舞う藤の花弁が冷たく淡く流れてくる様が浮かびました。

藤の木の下にボウと立ち出でる、美しい鬼。
そのまなざしの緋に魅せられて、床に伏していた薄紅嬢はあれよあれよと生気を取り戻す。

同時にうっすらと蘇り出すは、薄紅嬢が伏せる以前のモノクロの記憶。
鬼の姿へ、薄紅嬢の声は名を呼んでいたらしい。
心を精神を揺さぶられるような、甘く近かったであろう記憶は、薄紅嬢を惑わすか誘うか──。


藤の花に香に魅入られる、切なくて幻想的なお話です。

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