題名通り、主人公は乳酸菌飲料を売る仕事をしている。しかし、義父の猛烈な反対によって、仕事を辞めざるを得なくなってしまった。まだ幼い我が子もいるし、夫は理解がある人だ。だから妻としての自分も、母としての自分も、ちゃんと社会の中にいるし、私の価値が消えてしまうわけではない。それなのに、主人公は仕事に対して今まで真摯に向き合ってきただけに、寂しさを感じていた。
いつものコースで、いつものお客様に乳酸菌飲料を買って貰う日々。しかしある場所で不協和音が聞こえて来た。果たしていつもお客様に、主人公が出来ることとは?
ただのお仕事小説と侮らない方がいいです。
人間関係や立場の違いからくる軋轢、その中で頑張る主人公。
仕事に矜持を持って、いつも明るく笑顔で接してきた。
まさに働く人の鑑だ。
とても、面白く、感服しました。
この短い作品の中に、ここまで詰め込まれている、と感動ました。
そして主人公を応援したくなること間違いなしです。
是非、御一読下さい。
櫻子さんには大好きな仕事がある。乳酸菌飲料の販売レディだ。
櫻子さんのお母さんも同じ仕事で、シングルマザーとして育ててくれた母が大好きだった。そして今は三歳の娘も、保育園の迎えの自転車で飲むこの乳酸飲料の味が大好きだ。
だけど、生きがいとも言えるこの仕事も後五日で終わりだ。
「母親は働くべきでない」と、義父に強く反対されたから――
櫻子さんは、決して誰かの言いなりになるような「弱い」女性ではありません。辞職を決めたのも、夫と義父との関係に不和を及ぼしたくなかった、誰よりも自分を優先してくれた母から受け継いだ、家族への想いがあるからです。
それでも。社会と役割と、会社と責任と、見えない圧力に押し込められ、心の枷に縛られた「自分」の叫びが聞こえる。
退職を切っ掛けに僅かに傾いた天秤上で、彼女は「ある行動」を起こすことを心に決めます。そして退職最終日のその日、実行に移すのですが……
退職までの五日間に張られていた事態のミステリー的要素、動機となる心情と関係性、それらが仕事と家族の両面から描かれて、見事な帰結を果たします。
感情を描くのではなく思い起こさせる筆致は、サスペンス的な緊迫も覚えました。
このレビューが、この作品に出会う誰かの切っ掛けになれば幸いです。
きっとこういう現実が社会の中に沢山転がっているのだろう——。
乳酸菌飲料の訪問販売員である主人公は5日後にこの仕事を退職することが決まっている。そんなスタートから徐々にわかってくるもの。彼女の背負う家庭のことや、そしてこれまで彼女が積み上げてきた多くの信頼が物語の中からこちらへとひしひしと伝わってくる。
こんな風に誠実に仕事をしていきたい。
けれど女性であるが故に、母であるが故に、こんな選択を迫られる人も世の中には少なくはない。
彼女が「辞めるから」こそやろうとした行動には、凄く驚きながらもその勇気に対して読みながら全力で応援していました。
彼女が日々配達していたものは商品だけでなく、信頼と皆の笑顔や希望だったのかもしれない。
多くの選択があり、どうしても選ばなければいけない世の中で、きっとこの作品に共感し励まされる人は多いはず。
是非とも読んでいただきたい一作です。
「仕事とわたし、どっちが大事なの!」とは、ひと昔前に彼女が彼氏に、妻が夫に問い詰める言葉としてよく見聞きした事ですが、どちらも大事だと答えるしかないのが実際で。
どんな対象でも真剣で大事だからこそ頑張れるのだけど、頑張りがどちらかに偏った瞬間、誰かに責められる事はままある事で……。
自分の選択に迷う事も、何かを得るには何かを捨てなければならないと思える事もあるけれど、それでも大切なものは揺らがないし、譲ってはいけない部分もある。折り合いをつける必要があると悩みつつも頑張る主人公の葛藤と考え方は、仕事と家庭、家族の間で板挟みに苦しむ人への光明になりうると思います。
淡々と心情が語られるだけの物語と思いきや、手に汗握る展開があるなどドラマ性も高い作品です。一読の価値あり。ぜひ。
制服を着て販売業務をする櫻子は、母であり妻であり嫁であり、しかし櫻子という一人の人間である。
子育てに追われ家にこもれば、社会と疎遠になっていると感じるときもあるだろう。
当短編は、それを打破するため働きに出て、自分という尊厳を守るひともいることにフォーカスした、現代社会ならではのひと幕であった。
母として、妻として、嫁としても当然大切でやりがいはあるだろう。
しかし社会人として、自分として、この仕事に従事する者としてなにができるか、なにがしたかったか、なにが大切か――リアルとフィクションの狭間を巧く描いてある秀作と感じました。
こちらはとある母親が天職を手放すまでのお話です。
その職というのは、乳酸菌飲料の販売員。
雨の日も晴れの日も笑顔と共に配達を続ける彼女は、とあることをきっかけにその職を手放す決心をします。
その最後の5日間をこの短編という1万字以内で、彼女の揺れ動く心理描写をメインに描かれている本作。
読んでいると後半から自然と涙が溢れ出し、ラストはもう誰にも見せられない状態でした。
母親として、働く社会人として、一人の女性として、主人公の気持ちが見事に描かれており、共感できるところもとてもありました。
読まれる皆さんも「そうだよね」と思ってしまう部分があるのではないかなと思います。
何を一番に優先すべきか、何を一番に大切にすべきか。
個人的には順番なんて決められないと思っていますが、生きる上でその順番を決めなくてはいけない面も出て来ると思います。
そんな人生の岐路に立たされている主人公の、過去、そして今と未来にぜひ触れていただきたいなと思います。
彼女を通して、読者にとっても何かしらの希望が見えるのではないかなと思います。