その人は言った。「『思い』は。『祈り』は。誰かに届くためにある」、と。

 異世界、転生、冒険――人気要素ですよね。
 なぜでしょう。
 現世で叶わないものを、別世界なら叶えられるから……本当に、そうならいいなと思うから。

 主人公アイネは、当物語のなかでは珍しい人種です。予知や予言に似たことができる……いや、本当はもう少し違うけれど。
 それゆえに、反逆や謀反、国の行く末まで『わかって』いました。だから、止めようと立ち上がった。
 たかだかその辺の村娘、それも孤児の異能力者の言うことを、帝国側はすんなり受け入れるわけもなく。舐められ小馬鹿にされ信じてもらえずとも、アイネは折れずに進みます。たとえ『一人きり』だとしても。本当に、そうならいいなと思うことを、叶えるために。

 アイネと半信半疑に関わる帝国側。
 アイネと敵対する『多分主人公サイド』。
 そして、アイネ自身も知らないアイネを『知る』人。
 決してみんなが一様に協力して努力して勝利して、という冒険譚ではありませんが、そうだよそういうファンタジープレイが欲しかったんだよ! という読書体験をさせてくれるに違いありません。
 淡々と粛々とした語り口で、当物語は『絶対に』予測できない展開へと導かれます。そういうのを待っていた、まさにこれに尽きるかと。 

 小難しいルールも単語も出てきません。ファンタジーに手が出しにくい・もう卒業した……そんな方にこそ取ってほしい物語です。