薄紅色の恋の行方。

 読み終えて、輪郭がくっきりとした状態で改めてはじまりの景色に戻ると、その世界の色がまったく違って見える。静かな言葉の中に、情動に訴えかける力強さのある、とても素敵な短編だなぁ、と思いました。

〈唐棣の家の庭には、見事な花を付ける一本の藤がある。二年前――ちょうど一人娘の薄紅が病に罹った頃から年中花を咲かせるようになり、枯れることのない藤を見て畏怖した人々がいつしか「鬼憑き」と呼ぶようになっていった。〉

 美しい藤に隠れた妖しい魅力に引き寄せられていく薄紅の恋慕の情、その薄紅色の恋が向かう先に、曖昧だった記憶が重なって、立ち上がる像は儚くも切なく、確かにそこにふたりだけの世界があるのだ、と信じさせてくれます。相手のみをよすがにその感情のままに奔るひたむきな恋を紡いだ言の葉に身を寄せて、色彩豊かな登場人物たちによって描き出される物語を愉しむ。あぁ小説って楽しいなぁ、と再確認できるような小説でした。

 素敵な小説をありがとうございます。

 

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