〈思いつきで積み重ねられたような粗末な小屋(バラック)が無造作に立ち並ぶ、どこかの町中の風景。空は青く澄み渡り、燦然と輝く太陽の光が優しく世界を照らしている。建物の所々で顔を覗かせる樹木の緑が、生命を謳歌するようにしてきらきらと輝いていた。そして、中央の路地で背を向けながら、空を見上げている少女らしき人影。〉
ネタバレにはできる限りは気を付けますが、事前情報なしで読んだほうがより楽しめるでしょう。作品をまず読んでください。
舞台は国家崩壊から半世紀経つ、元・日本領。民間企業による7つの治安維持管理局が点在し、〈オレ〉はそのうちで全て管理局の統一を目指す管理局に身を置いている。
麻薬王の死体からサルベージされた郷愁を誘う記憶と、死亡前に使用された形跡の見つかるA・I。まだ統一こそされていないものの、ほぼディストピア的な監視下社会の中で、割り当てられた役割を演じる〈オレ〉は、現実と虚構が曖昧な感覚に引きずりこまれていく。
というのが本作のストーリーなのですが、一度読んだあとに読み返すと、導入でまったく違った感覚を得る文章があり、それが前述の引用した文章でした。
最後に語り手は大きな選択を与えられて、その中で選び取った結末は、「いま」へのかすかな希望か、あるいはそれさえもまだ虚構の続きなのか。
一筋縄ではいかない余韻を残す、とても印象的な短編でした。
読了した後で、ああ、これ5000文字の作品なのか、と思わず我に返ってしまいました。
重厚な世界観を、豊富な語彙をもって、硬めの文体ながらひっかかりなく読ませる。そんな上手さが見え隠れします。
しかし本作で一番目を引いたのは構成でしょうか?
人の生死を扱う冒頭と、駆け引きのある登場人物らの会話文で読者の興味を引き、短い回想を挟んでクライマックスといえるアクションシーンへ。
そこで主人公が見たものが、冒頭の伏線を回収しつつ結末へと誘います。
最後まで読み終えて、それから一度中盤に戻り、「ああ、なるほど」と膝を打ちました。
不条理な世界のなかで、息苦しさを感じつつも、今日もまた前を向く主人公の未来にどうか幸あれ。
まず最初の二行で心奪われました。
創作物における面白い会話の条件の一つに「発された言葉の内容と意図にズレがある」点があるかと思うのですが、これはまさしく面白い会話。
一筋縄でいかなそうな登場人物たちに惹かれて文章を追っていくと、次いで立ち現れてくるのはディストピア化した世界のありさま。
約五千字の短さとは思えないほどに、世界の息苦しさや不公正さがひしひしと伝わってきます。
生きづらい世界の中で己が課をこなす主人公は、やはりここでも裏と表を使い分ける。追いかけている人物も、安易に真意をさらけ出したりはしない。
本意を隠す登場人物たちと、そうせざるをえない抑圧された社会のありようが見事に描き出されていると感じます。
堪能させていただきました。
ありがとうございました!!