世の中の不条理と、家族への愛に触れる人間ドラマ

 読了した後で、ああ、これ5000文字の作品なのか、と思わず我に返ってしまいました。
 重厚な世界観を、豊富な語彙をもって、硬めの文体ながらひっかかりなく読ませる。そんな上手さが見え隠れします。
 しかし本作で一番目を引いたのは構成でしょうか?
 人の生死を扱う冒頭と、駆け引きのある登場人物らの会話文で読者の興味を引き、短い回想を挟んでクライマックスといえるアクションシーンへ。
 そこで主人公が見たものが、冒頭の伏線を回収しつつ結末へと誘います。
 最後まで読み終えて、それから一度中盤に戻り、「ああ、なるほど」と膝を打ちました。

 不条理な世界のなかで、息苦しさを感じつつも、今日もまた前を向く主人公の未来にどうか幸あれ。

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