残される光へと向けて。

 どこまで語るべきか大変悩んでしまう作品ですし、真っ新な気持ちで読んだほうがいいと思うので、ネタバレには気を付けますが、良かったら私の文章などを読むよりも作品のほうを読んでください。


 携挙(ラプチャー)ウィルス。それは人間を光の束に変えて、跡形もなく消し去る現象で、聖書に記された予言そのものだとカルト宗教が使いはじめて、一般的な呼称として広まった。そんな怪現象が世界中に急速に広がったのは十年前の夏頃、〈俺〉は倉庫整理の仕事をしていた。舞台はそこから十年後、〈俺〉は旅の行動を共にしていたマサノリが四年前に光の束になる直前、〈俺〉に遺してくれた論文を研究所に届けるために、マサノリの娘であるミカと一緒に歩き続けている。

 交通の途絶えた世界を歩き続けるふたり、安全が約束されない道を放浪する姿はロードノベルの趣きがあります。一回り以上、年齢の離れたミカとの関係、回想の中でおぼろげに明かされていくマサノリの輪郭、外敵の存在、そして〈俺〉の決断、と素敵な魅力がいっぱい詰まっていました。

 光となって消滅する世界で、確かな光を信じて、バトンを繋いでいく者たちの姿がとても愛おしいなぁ、と思う読後感でした。