概要
これがおれのハッピーエンドだ
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- ★★★ Excellent!!!溶けゆく記憶の中の、ロックフェスティバルの甘美な思い出。
轟音と夏の暑さと群衆が生んだ大きなうねりの中に脳が溶けていく感覚。ロックフェスの醍醐味です。主人公は野外フェスに参加して、「ありふれた群れの一部」になりたいと望むのですが、決して馴染めません。しかし、彼との出会いによって、そしてバンドの演奏によって、次第に蕩けていくのです。
その過程だけでも十分に楽しめるのですが、本作には仕掛けがあり、フェスの一場面が回想になっています。現在の主人公の目の前には記憶が溶けてしまった彼がいて、彼の語る二人の出会いは実際とは少し異なっているようで……。だからこそ、過去の思い出がより大切で美しいものになるのですね。現在と過去のシーンをつなげる最後の一文は見事。こ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!カケオチタ、記憶。
〈よくわからないまま頷いたとき、伝った汗が耳の傍を流れた。ああ、脳が溶けたのだなと思ってから、バター味だといいなと思った。〉
語れば語るほど色褪せていく気がするので、私のつたない感想を読んでいる暇があるならば、作品のほうを読みなさい。良いですね? 分かりましたか?
〈ある程度の美化と欠落に飾られた思い出は、冗談のように舌触りがいい。〉
ということで、まず私は困っています。作品のあらすじを書いてみたところで、あまり意味はないような気がします。そこに強烈な魅力を宿す作品ではない、と思うからです。本作はロックフェスティバルに参加した記憶を回想する物語で、出会い、育まれ、欠け落ち、拾い上げ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!の〜みそコネコネ
遠い昔の思い出、彼(主人)と出会ったロックフェスでの出来事を振り返る田中さんの回想。
何を書けというんです? いやもう、とてもよかった、好き、という言葉以外なんにも浮かんでこない……。
打ちのめされました。とても静かで落ち着いた文体の中に、はっきりくっきり描き出されるこう、何か。やべーやつ。物語性の核にあたる部分というか、『溶けること』という要素に仮託されているなんらかの事柄。名前のない何かというか、容易に言い換えの効かない〝それ〟そのものだからこそこの物語の形以外は取りようがなかったという、その時点でもう面白いに決まってるし感想の書きようまでなくなるのでずるいです。
まずもって文章…続きを読む - ★★★ Excellent!!!溶ける魔法と解けない魔法
溶けそうになる熱気や音に包まれて謎の一体感と共に浮世離れした気分になる。一度でも音楽フェスに行ったことがある人ならよくわかる感覚だ。
音楽やアーティストに全然興味がなくてもこの"お祭り感"は寛容で誰もが特別な気分になれる。私自身は一曲か二曲くらいしか知らないのだけどACIDMANが好きだった軽音部の頃の友達のことを思い出した。
ブレインダムドってぷよぷよのアレですよね?この意味が直接的には杉山さんを、関節的には田中さんを指してて、魔法で溶けかかったもの(記憶)とそれでも解けなかった魔法(絆)のが韻になってて素敵と言っていいのかわからないけれどこんな形のロマンチックもあっていいよねと思いました。