ブレインダムド

作者 草食った

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★★★ Excellent!!!

〈よくわからないまま頷いたとき、伝った汗が耳の傍を流れた。ああ、脳が溶けたのだなと思ってから、バター味だといいなと思った。〉

 語れば語るほど色褪せていく気がするので、私のつたない感想を読んでいる暇があるならば、作品のほうを読みなさい。良いですね? 分かりましたか?

〈ある程度の美化と欠落に飾られた思い出は、冗談のように舌触りがいい。〉

 ということで、まず私は困っています。作品のあらすじを書いてみたところで、あまり意味はないような気がします。そこに強烈な魅力を宿す作品ではない、と思うからです。本作はロックフェスティバルに参加した記憶を回想する物語で、出会い、育まれ、欠け落ち、拾い上げていく。

 決してめずらしいわけではない、身近にあるかもしれない世界に、新たな視野を加え、言葉の限りを尽くして、どこまでも特別な世界を創り上げ、ありふれたものなどなく、もしあるように見えているとしたら、それは見る側が見ようとしていないだけなのだ、と教えてくれるような……うーむ、どう説明してもいいのか、やっぱりどうもこの作品を語るのは難しい。作品が難しいのではなく、語るのが難しい。

 もうこれは本当に、こんなつたない文章を読んでいる暇ではないのだ、未読のあなたは。

★★★ Excellent!!!

おばあさんの一人ぼっちだった頃の思い出から恋に落ちるまでが甘やかで、ステージに立っているかのように華々しく、切なかったです。おじいさんの中の思い出は枝葉が切り落とされただけで、本当に当時そういう感じの心情だったんじゃないでしょうか。実際おばあさんも連れ出された、って感じに語ってるわけで。

おじいさんの呪われた脳みその呪いは、多分病気じゃなくてもっと甘やかで愛しいものなのだと思います。ホロリとさせられました。

★★★ Excellent!!!

 遠い昔の思い出、彼(主人)と出会ったロックフェスでの出来事を振り返る田中さんの回想。
 何を書けというんです? いやもう、とてもよかった、好き、という言葉以外なんにも浮かんでこない……。
 打ちのめされました。とても静かで落ち着いた文体の中に、はっきりくっきり描き出されるこう、何か。やべーやつ。物語性の核にあたる部分というか、『溶けること』という要素に仮託されているなんらかの事柄。名前のない何かというか、容易に言い換えの効かない〝それ〟そのものだからこそこの物語の形以外は取りようがなかったという、その時点でもう面白いに決まってるし感想の書きようまでなくなるのでずるいです。
 まずもって文章そのものがとてもうまくてただただ気持ち良いので、正直内容をどう読んだか言語化できる気がしません。一度物語に乗ってしまうともう逃げられない。終盤なんかもう目が勝手に先へ先へと引っ張られるような感覚で読んでました。なんでしょうこれ。本当に説明できる気がしない……。
 これはとても個人的な感想になる(=人によって異論めっちゃありそう)と思うのですけれど、音の表現というか使われ方がすごかったです。フェスだし実際バリバリ上演されてる場面もあるのに、いうほど音楽が〝聴こえてこない〟。ワッときたりビリビリするような空気の振動と、群衆の発する湿った熱気、それに当てられた倦怠感に喉の渇き、さらにはスポーツドリンクを飲み下した瞬間の潤いと、感覚に訴えてくる描写がこんなにもてんこ盛りであるのに(しかもそのどれもがゾクゾクするほど生々しいのに)、でも音楽(聴覚)だけが少し違う。少なくとも「聴く」という感覚ではなくて、でも音の中に「いる」という感触はしっかりある。
 フェスやライブイベントでの大音響ってこんな感じ、というのもあるのかしれませんけど、でもそれ以上にというかそれ以前にというか、彼との会話の方にピント… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

もう間違いなくこのまましあわせな終わりを迎えていく物語で、それはこの二人がこの二人である限り確約されているんだけど、しかしそのしあわせはぐるぐるに閉じていてどろどろに溶けていて、なんかほんと、ああ、読後感。こういうのが読後感というやつなんだよな……ざわざわしてしまうな……。

★★★ Excellent!!!

「信頼できない語り手」という小説・映画上の手法があるのですが、私はこの手法で書かれた物語が好きなんです。うまくいっていると、物語にいい意味で”揺れ”ができるというか複層的になるので。

”私”の思い出はクリアなままなのでしょうか、それとも夫の溶けていく記憶と彼の物語る過去をすくって、やはり幾分美しいものになっているのでしょうか。
本作は「信頼できない語り手」が美しい形で使われた物語だなと思いながら拝読いたしました。「どこまで本当なんだ」と読んでいる方はほんの少しだけ切なく、しかしその思い出の美しさと幸福に”溶ける”、現在進行形でハッピーエンドを迎えている物語。

「不能共」https://kakuyomu.jp/works/1177354054918366188を書かれた作者さんですし、キャッチコピーがあれなので、「どうせ今回も何かあるんだろ」と思いながらフォローしたとツイートをしたら、作者の草食ったさんはそんな、割と普通の恋愛掌編ですと仰っていたんですけど、「どこが普通の恋愛掌編だ」(でも仰ろうとしているところは何となく分かります)。一筋縄でいかない作家さんはいいですね。

★★★ Excellent!!!

溶けそうになる熱気や音に包まれて謎の一体感と共に浮世離れした気分になる。一度でも音楽フェスに行ったことがある人ならよくわかる感覚だ。
音楽やアーティストに全然興味がなくてもこの"お祭り感"は寛容で誰もが特別な気分になれる。私自身は一曲か二曲くらいしか知らないのだけどACIDMANが好きだった軽音部の頃の友達のことを思い出した。
ブレインダムドってぷよぷよのアレですよね?この意味が直接的には杉山さんを、関節的には田中さんを指してて、魔法で溶けかかったもの(記憶)とそれでも解けなかった魔法(絆)のが韻になってて素敵と言っていいのかわからないけれどこんな形のロマンチックもあっていいよねと思いました。