カケオチタ、記憶。

〈よくわからないまま頷いたとき、伝った汗が耳の傍を流れた。ああ、脳が溶けたのだなと思ってから、バター味だといいなと思った。〉

 語れば語るほど色褪せていく気がするので、私のつたない感想を読んでいる暇があるならば、作品のほうを読みなさい。良いですね? 分かりましたか?

〈ある程度の美化と欠落に飾られた思い出は、冗談のように舌触りがいい。〉

 ということで、まず私は困っています。作品のあらすじを書いてみたところで、あまり意味はないような気がします。そこに強烈な魅力を宿す作品ではない、と思うからです。本作はロックフェスティバルに参加した記憶を回想する物語で、出会い、育まれ、欠け落ち、拾い上げていく。

 決してめずらしいわけではない、身近にあるかもしれない世界に、新たな視野を加え、言葉の限りを尽くして、どこまでも特別な世界を創り上げ、ありふれたものなどなく、もしあるように見えているとしたら、それは見る側が見ようとしていないだけなのだ、と教えてくれるような……うーむ、どう説明してもいいのか、やっぱりどうもこの作品を語るのは難しい。作品が難しいのではなく、語るのが難しい。

 もうこれは本当に、こんなつたない文章を読んでいる暇ではないのだ、未読のあなたは。

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