狂おしい藤の香に浮かされて、娘は姿をくらませる
- ★★★ Excellent!!!
年中咲き誇る藤の花、白髪の鬼、夜ごと重ねられゆく密やかな逢瀬──耽美なモチーフが織りあげる幻想的な和風世界観に、虜にならずにはいられませんでした。
良家の娘とあやかしの切ない恋路を綴った本作ですが、物語そのものに妖力が宿っているようで、一文一文の美しさに耽溺します。登場人物もさることながら、何と言っても流れる情景描写が魅力的。夢中になって読み進めるうち、噎せ返る藤の香がしずかにわたしたちの肺を侵し、気づけば遅効性のあまい毒に蝕まれている。そんな読後感を覚えました。
藤棚のささめきがまだ鼓膜に残っています。儚くも鮮烈な恋の行方、胸を締めつけるようなその結末には心ゆくばかりです。
とても素敵な物語でした。きっと忘れられないと思います。