第3話 藤の簪
屋敷から藤の咲く庭園を囲んで伸びる廊下の先にある離れは、二年前から
今ではいつでも藤が見られるこの部屋がいいと、元の部屋から箪笥や使い慣れた文机を持ち込んですっかり自室として馴染んでいる。この離れで
「
「
「
「借りていた本を先生に預けたの。だから却って気を遣わせてしまったのかもしれないわ」
「そうですか。でも
「
「あら、お嬢様はお嫌ですか?」
「そういうことではなくて……
この
自分の置かれている状況を知っているからこそ、たとえ冗談でも二人を結び付けようとする話題が上がる度に、
「風が冷えてきましたね。羽織るものをお出しします」
過ごしやすい秋とは言っても、日が傾きかけると気温はぐっと低くなる。冷たい夜気に当たって熱を出しては大変だと、
その拍子に、白い何かが畳の上に転がり落ちた。白に優しい花模様の描かれた手拭いは、何かを包んでいるらしく細長く折りたたまれている。手に取ると、既に乱れた手拭いの端から、薄紫の藤を飾った一本の
「
背中に届く
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