第6話 鬼の声
眠れなかった。
頭の中で多くの言葉が渦巻いていた。
貰い手のない
父、
『
満面の笑みでそう言った
『
脳裏に映る
『
縁談話を告げた際に、
『――様のことはもうお忘れになって、幸せになって下さい』
弾かれたように目を開けた。
心臓が痛いくらいに鳴っている。呼吸が上手く出来ず、胸元を抑えて背を丸めると、下ろした黒髪が肩からさらりと滑り落ちた。
『
よみがえりかけた記憶の一片、藤の
言われた覚えのない
記憶に残る見知らぬ男の声と、藤の
胸の鼓動は
***
男が女の髪に、一本の藤の
髪に挿した
『
呼んでいるのは夢の続きか。
『
呼ばれているのは
ひどく曖昧な意識のまま
ゆっくりと体を起こすと、髪に絡まっていた藤の花びらがはらりと零れ落ちた。
名前を呼ばれていたような気がする。
誰に、と自身に問うた答えは、
「
藤棚の下。さざめく花房の向こうから、
「
鬼が呼ぶ。
その度に
聞いたことなどないはずの鬼の声音に、見覚えのない青年の姿が脳裏に浮かんだ。優しく微笑み返す青年を、なぜか懐かしいと思った。
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