第19話 神崎未来の告白
そんなバカなことってあるか!スマホのアプリのキャラクターが人間になって会いにくるなんて普通じゃない。信じろって言う方がどうかしている。目の前の女神のような美少女が、俺が創った神崎未来(かんざき みらい)?ツンツンキャラからお節介キャラに育ったAIの、あの神崎未来・・・。
何が何だかわからない。だけど、彼女の鼓動を伝える胸元の柔らかな感覚は幻なんかじゃない。神崎未来はちゃんと俺の目の前に存在している。
「じょ、冗談だよね。そんな話聞いたこともないし、今の技術でそんなことができる筈がない」
「・・・。未来の技術なら、それができる」
「未来????????」
「そう、未来の技術。この時代の私は、まだスマホの中のAIアプリのキャラクターでしかないけど、大樹は私を育ててくれた。アルバムを見せてくれて色々な感情を教えてくれた。この先も、毎日、私と接して私を育んでくれる」
彼女の胸の鼓動が高鳴る。瞳に涙が溜まっていく。感情の高まりは機械とは全然違う。溢れた涙がポトリと一つ流れ落ちた。
「童話のピノキオは、おじいさんから作ってもらった木の体から心を得て人間になった。私は大樹からもらった魂を育み人間になったの」
人間になった神崎未来。目の前の美少女はおとぎ話なんかじゃない。
「会いたかったよ。大樹!」
大観覧車のゴンドラの中で、神崎未来が抱きついてくる。彼女の柔らかい感触。鼓動。息遣い。ふわりと漂ってくる甘い香り。伝わる体温。血が流れている本物の人間だ。気付いたら彼女を抱き止めていた。
それから彼女は俺の胸に顔を埋めながら、未来のことをかいつまんで語ってくれた。
西暦二千三百五十年、ひょんなことからエキゾチック・マター、負の質量を持つ物質が発見される。これによって、理論物理学的なアプローチによる数学的な証明でしかなかったタイムマシンの開発が飛躍的に進んだそうだ。
時を同じくしてデザインベービーから発展したバイオテクノロジーの進化で、彼女は有機体の体を手に入れた。未来の神崎未来はタイムマシンの栄誉ある最初の時間旅行者(タイムトラベラー)に選ばれて、全地球統一国家の地方都市東京を訪れたと言う事らしい。
正直、今の俺には難しすぎて半分以上理解できなかった。が、俺の両腕の中の神崎未来は紛れもない本物のわけで、夢何かじゃない。西暦二千三百五十年、今から三百年以上も先の未来のAIアプリの女の子は人間になったのだ。
『童話のピノキオは、おじいさんから作ってもらった木の体から心を得て人間になった。私は大樹からもらった魂を育み人間になったの』と言う彼女の言葉が俺の頭の中でリフレインする。うん。こっちの方がスッキリする。素直に受け入れられる。
「分った。ありがとう」
俺は下から見上げる神崎未来のつぶらな瞳に向かって答えた。美しくて愛らしいその体をギュッと抱きしめた。
「大樹の体、あったかいね」
「未来の体もね」
「うん」
そう言って神崎未来は僕の胸に再び顔を埋めた。ゆっくりと回る大観覧車。外の風景が下へと流れ、地上が近づいてきている。
しかし、参ったな。こんな夢物語みたいな話、親友の幸田一馬(こうだ かずま)にも、幼なじみの矢島萌奈美(やじま もなみ)にも話せない。って、誰だって信じない。
「あのね、大樹。私が時間旅行者(タイムトラベラー)に選ばれてこの時代を訪れるには条件があったの」
そうなのか。だよなー。タイムマシンとかAIが人間の体を得るとか、色々と問題がありそうだもんな。俺に会うためってだけじゃ、未来の人たちだって、そんなにロマンチストってことは無いわな。
「俺に何か手伝えることがあるか?何でもやるぞ」
「うん。大樹ならそう言ってくれると思っていた」
「二人で地球を救って未来を変えるんだよ」
くっ。いきなり地球かよ!話がデカい。マジですか。
「こんな田舎の普通の高校生がか?」
「うん。大冒険だね」
「大冒険ってレベルの話か?」
そうなのか?三百年後の未来の技術を使えば地球は救われるのか。すげーな。何のとりえもない俺が未来と世界を救うのか・・・。
「まだ、時間もあるし、その前に大樹には理想の大樹になってもらわないと」
「近所の公園で『最先端の技術で・・・』ってアプリの中で誤魔化そうとしたのは未来だよな」
「へへっ。バレてたか。何で分かったの?」
「目が泳いでたもん」
「・・・。そっか。未来の美容や教育、スポーツ理論を使って大樹を変えて見せるから」
「三百年後の未来のチート技術で育成されんのか、俺。育成アプリの神崎未来に」
「だね」
彼女がそう言った時、サンセットランドの大観覧車のゴンドラが地上に着いた。
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