第27話 侵入者

「はい、お終い。お勉強タイム終了」


「んっ?俺、まだまだ頑張れるぞ」


 けっこう、ノリノリの状態なのにリアル神崎未来(かんざき みらい)が突然、終わりを告げてくる。


「いいの。これで終わり」


「やれるときにやり切った方が良くないか。ほら、まだそれほど経っていなし・・・」


「大樹の脳はもう直ぐグロッキーだよ。人間は集中できるのが二時間前後だから。これ以上、やっても先に覚えたことを忘れるだけだよ」


「それも未来の教育法なのか?」


「はい。大脳生理学の応用。明日もあるし無理は厳禁かな」


「明日も俺の家に来るのか」


「はい、もちろん。迷惑かなー、ゴールデンウイークの間はずっと大樹に会いたい」


 マジですか。うるうるの瞳で訴えなくても、もちろんOK。迷惑なんてあるもんか。てか、超ー、嬉しい。って、俺、二時間も集中して勉強してたのか。二十分くらいかと思った。すげえな、未来の勉強法。効率いいなー。これなら続けられそうだ。


「ありがとう、未来。何かやれる気がしてきた」


「今度の中間テストは、学年トップだね」


「ぐふっ、それはちょっと目標が大きすぎるような」


「大丈夫、未来がついているもん」


 そっ、そうなのか。万年ランク外の俺がトップだと。アニメじゃあるましい。いくら何でも凄すぎ。それに、周りが怪しまないか。転校してくるなりクラスのヒロインになってしまった神崎未来と、見た目だけは美少女の矢島萌奈美(やじま もなみ)と仲良くしているだけで嫉妬されてたんだぞ、俺。不安になってくるわ。


「大樹の実力を見せつけてやらないとだね」


「実力なのかなー。ほぼ百パーセント、未来のチート勉強法のお陰だったりして・・・」


「教えたのは私だけど、テスト問題を解くのは大樹だから。また明日、頑張ろうね」


「おう」


「まだ、三時だから次は肉体改造かな」


「未来に教えてもらった『一回三分で体スッキリ体操』は毎日ちゃんとしているぞ」


「うん。知っている。今日は特別プログラム。未来とプールに行こう」


「・・・。大樹、どうしたの」


「俺、泳げないんだ」


「うん。知っている」


「いきなりは、ちょっと。恥ずかしい」


「未来が手取り足取り教えるよ!」


 手取り足取りって・・・。思わず未来の色々なところに目がいってしまう。一応、俺だって高二の健全な男子だから不都合もある。俺の目線に気付いたのか未来はポッと顔を赤らめる。


「ほっといたらあっという間に夏だよ。私も頑張るから大樹も頑張ってね。泳げるようになりたいでしょ」


「そりゃー、毎年、夏が来るのが大嫌いだったから泳げるようにはなりたいけど・・・」


「じぁあ、決まり。私、水着を用意してあるから」


 アイドル以上の美少女、リアル神崎未来の水着姿を想像してしまう。目のやり場がない・・・。とりあえず、この場を離れて冷静にならないと。


「あっ、俺、水着を探してくるわ」


 俺は真っ赤になった顔を見られないように自分の部屋に駆け込んだ。神崎未来と二人っきりのプールデート。リア充カップルの上級イベントじゃんかよ。美少女育成アプリから生まれた神崎未来、とんでもなくないか。リアル美少女の水着姿と、泳げずに生き恥をさらす俺の姿を頭の中で天秤にかけてみる。


「やっぱ、水着だよな・・・」


「水着がどったって!」


 ぬっ、この声は。俺の天敵、矢島萌奈美。また、窓から入り込んて来たのか。お前はハエか蚊かの仲間か?


「よっ、大樹!お邪魔するな」


 うわっ。萌奈美の彼氏になったイケメン、幸田一馬(こうだ かずま)。お前もそこから現れるのか・・・。


「しかし、萌奈美から話には聞いていたが、本当に部屋がつながっているみたいだな」


 一馬は面白そうな顔をして、萌奈美の部屋から俺の部屋の窓枠を飛び越えてベッドに上がり込んできた。


「いらっしゃい。汚い部屋だけど気にしないでね」


 萌奈美のやつ、お前が言う事か!汚い部屋で悪かったな。って、やばい。水着のこと萌奈美に聞かれてしまった・・・。


「んで、金づち大樹。独りでプールにでも行くのか?」


「ぐっ」


 神崎未来が来ているなんて知れたら大変だ。どうする、常田大樹(ときだ だいき)。すっとぼける言い訳を考えるのだ。


「ねぇ、大樹。水着、見つかった?」


 あうっ。終わった。慌てて開けっぱなしだった部屋の扉の前に神崎未来が立っている。萌奈美も一馬も思考を停止してフリーズした。


「一馬くんと萌奈美さん?」


「未来!違うんだ。こいつら勝手に窓から入り込んで・・・」


 うわー!修羅場だ。良い感じで一日を過ごしていたのに・・・。


「一馬くん、萌奈美さん。こんにちは」


 未来に声を掛けられて萌奈美と一馬の魔法が解けた。

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