第26話 天才化育成計画
「はい、お終い。リラックス出来たらお勉強の時間だね」
リアルの神崎未来(かんざき みらい)は、膝の上に乗った俺の顔を見つめて告げた。
「えっ?」
「ゴールデンウイークが終わったら中間テストだよ。大樹」
ぐわっ!思い出してしまった。飴の次はムチかよ!が、しかしこれが現実だ。リアルの世界は甘くない。
「そっ、そうだな」
「うん。私、大樹の苦手なところをまとめてノートを作ってきたから」
未来が自分のカバンから取り出したノートには、女の子らしい可愛らしい文字でビッシリと復習内容が記されている。
「こっ、これを俺のために作ってきたのか」
驚きを通り越して感動すら覚える。どれ程の時間をかけたらこれが作れるのだろうか?
「はい。私の時間は全部大樹のものだよ。だって未来は大樹の為に存在するんだもの」
リビングテーブルで勉強を初めてさらに驚かされる。本当に俺の苦手なところが事細かく解説されている。数学何て小学校の算数のおさらいから整理されている。いくら無能な俺でも、手に取るように理解できる。
こりゃー、驚いた。未来の教育システムは進んでいる。何か俺、天才にでもなった気がしてきた。家庭教師も塾も、予備校もタジタジだな。未来がいたら誰だって無理せずに天才になれるんじゃないか。神崎未来の『一回三分で体スッキリ体操』も凄いが、痒い所に手が届くように、俺がつまずいていた疑問が氷でも解けるかのように解決されていく。
「うん、大樹。すごい!どんどん吸収している。次は応用編だよ。大樹なら絶対にクリアできるから。未来がついているもん」
未来の笑顔が眩しい。これはもはや俺の力というよりも、ほぼ全て女神様の魔法だ。俺がこんなに難しい問題をスラスラと解けるなんてあり得んだろ。未来からやってきた神崎未来。俺の作ったスマホアプリのキャラクター、完璧すぎる美少女は最強の師匠なのだ。
が、ノートの表紙にはちょっと戸惑いを覚える。だって『常田大樹(ときだ だいき)天才化育成計画』だぞ。どこぞのアニメのタイトルみたいだ。神崎未来!『一回三分で体スッキリ体操』もそうだが、超絶美少女は何故かネーミングのセンスが今一つなのね。
そんなこんなで笑えるところもあるが、分刻みで自分の頭が良くなっていくのを感じる。
「あのー、未来。肉じゃがに何か未来の薬とか仕込んでないよね」
「ふふっ。肉じゃがは普通だよ。私の大樹への愛情をタップリと注いだけどね」
『肉じゃがは』って言い方が引っ掛かる。いくら何でも俺がこんなに賢いわけがない。十六年間、俺は俺なりに努力してきたつもりだ。そんなに簡単に変われるものか?
「俺、いつも以上に頭がスッキリしているというか。これって普通じゃないよね。未来は絶対に俺に何かしたよね」
「大樹、天才と凡才の違いって知っている?未来の研究によれば、何にも違いが無いんだって」
「そっ、そうなのか?」
「はい。遺伝的にも、大脳生理学的にも同じなんだって。勉強できるかできないかの違いは、脳内の科学物質が記憶に最適な状態になっているかの違いでしかないの。大樹の頭がスッキリしていると言うのは勉強を受け入れる態勢が整っているってことだね」
「たったそれだけなのか」
幼なじみの矢島萌奈美(やじま もなみ)に追いつこうと必死になって夜通し勉強した俺って何だったんだ。もう、いっぱいいっぱいでフラフラになりながらも、努力したことがいけなかったのか?神崎未来の目が泳ぐのを俺は見逃さない。
「俺に何かしたよね!」
「ふふっ。バレたか。耳かきをしている時に、おまじないって言うか、ちょっと未来の暗示をかけた。でも、安心して。副作用とかないから」
「暗示って未来の催眠術?凄すぎるチートだな」
「はい。大樹専用勉強プログラムとセットじゃないと効果が出ないんだけどね」
「マジで」
「はい。未来は大樹の為なら、めっちゃ頑張るもん」
未来は『常田大樹天才化育成計画』と丸っこい文字で可愛らしく記されたノートをポンと叩いて指示した。ついでに、俺の方に向けて頭を差し出してくる。
なでなでして欲しいのか、無敵美少女の神崎未来!もう、俺は神崎未来、無しでは生きられないかもしれない。これって、ある種の中毒だよね。でも、こんな副作用なら溺れ切ってしまいたい。俺の手が彼女の頭に伸びて、なでなで!
「ふにゃー」
リアル神崎未来は目を細めて猫みたいな声を出す。かわいい。抱きしめてしまいそうになる気持ちを必死でこらえた。
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