第39話 ハンバーガーショップ
私こと矢島萌奈美(やじま もなみ)と男前の私の彼氏、幸田一馬(こうだ かずま)はテスト明けの日曜日、国道沿いのハンバーガーショップに自転車で訪れていた。私たちから少し離れたところで、同じような年代の女子高生グループがチラチラと一馬に目線を送ってはヒソヒソ話に花を咲かせている。
一馬は気にする様子もなく私に顔を近づけてきた。アップで見る一馬の顔は吹き出物一つなく、赤ちゃんみたいなスベスベの肌をしている。同年代の男子にありがちな脂ぎってもいず、爽やかアイドルみたいだ。隣りに住む幼なじみのネクラボッチ少年、常田大樹(ときだ だいき)とは大違い。私たちは大樹をネタに盛り上がっていた。
「でさー、大樹のやつ。小学校の運動会の時、私に負けて大泣きしてやんの。クラス全員前でだよ」
「なあ、萌奈美ちゃん。お前、そろそろ大樹のことを認めてやっても良いんじゃないか」
一馬は相変わらず優しく笑っている。でも、ちょっと言い過ぎたか。最近の大樹の成長ぶりには確かに驚かされる。私が励ましても一向に変わらず、いじけまくっていたのに。
「大樹、神崎未来(かんざき みらい)ちゃんが転校してきて変わったよね。ほんと大樹、分かりやすいわ。美人に弱い」
「そうか。萌奈美ちゃんにフラれて目覚めたんじゃないか」
「さんざん大樹を焚きつけてきたけど、全然だめだった。未来ちゃんには完敗だね。大樹があんなにカッコ良くなるなんて、未来ちゃんは凄いよ。いきなり東向きの雨漏り物件が、優良物件にリフォームされた様なもんだ」
「まあなー。萌奈美ちゃんは、なんだかんだ言ってヘタレな大樹が好きだったものな」
「あんな奴、好きなものか。ご近所のよしみでほっとけなかっただけだ。それに大樹がいないといじるネタがない」
「萌奈美ちゃんの悪い癖だな。そうやって大樹を追い込むから、あいつ、拗ねちまって」
「萌奈美は大樹のことを思って言ったのに」
「そうだな。萌奈美ちゃんは本当は優しいから。そんなことも含めて、俺は萌奈美ちゃんに惚れていたんだけどさ」
一馬は何時も素直だ。イケメンで常に周りの誰もが頼りにするくらいに性格も良い。その上、スポーツもできて頭もいい。田舎街にはなかなかいない生まれながらの超優良物件だ。
小学生の時から、一馬が私のことを好きでいてくれているのを知っていた。だけどそのことには、ずっと目をつむっていた。誰がどう見たって、一馬と大樹では比較にもならない。一馬から告白された時だってそう思った。
でも、返事が出来なかった。小学校の時に大樹から貰ったラブレターが、私の中でずっといきていたから。それなのに何時の間にか、私は大樹にとって『迷惑な子』になってしまった。うすうす気づいていたが認めたくなかった。素直じゃない。
「ねっ。一馬は、萌奈美のどこが好きなのかなー?」
上目づかいで一馬を見つめる。へへっ。この角度が萌奈美が一番可愛く見えるはずだ。私だって褒めてもらいたいのに。
「うーん」
一馬が額に皺をつくる。それでもイケメン顔は崩れない。って、ちょっとさ一馬、考え込まないでよ。美少女で頭もいい。スポーツだって女子の中ではトップクラス。惚れる所は幾らでもあるだろ。
「やんちゃなとこかな」
ニヤリと笑う一馬の顔が忌々しい。こんにゃろ。私は向かいに座る一馬の足を思いっきり踏んづけた。
「いてっ!俺は大樹じゃないぞ」
くっ。怒ってもイケメンなんだ。・・・。そう、一馬は大樹じゃない。大樹が変わることを待ち望んでいる間も、一馬は私のことをずっと待っていてくれた。自分のズルさに嫌気がさす。
「一馬は、大樹が未来ちゃんと幸せになれると思う?私がどんなに頑張っても大樹は変わらなかった。でも、未来ちゃんは違った。だから私も一馬に変えてもらうの。やんちゃでごめん」
「もっ、萌奈美ちゃんが謝るなんて・・・。ゴメン。俺が悪かった。俺は萌奈美の元気なところが大好きなんだ。その、今のままで十分だぞ」
「一馬・・・。ずっと萌奈美の側にいてくれる」
「もちろんだ」
ありがとう。一馬の顔を見て私は決心した。この人の側ずっといようと。もう迷ったりしないと。
ピロ、リロ、リン。
一馬のスマホが鳴った。
「うわっ。何だこれ?」
「どった。一馬」
「消したはずなんだけどなー。大樹が俺のスマホに入れたアプリが起動したみたいだ」
一馬は私に画面を見せてくれる。
「うわっ。それ、もしかして変態大樹と同じ美少女育成アプリ?」
画面の中で3DCGで描かれた美少女が笑みを浮かべて佇んでいる。そこに記された名前は黒木(くろき)アイ。
「こっ、これって。転校生の黒木アイだよね。中間テストで未来ちゃんと学年同率一位の・・・」
「・・・。名前も同じだし顔もそっくりだな」
何これ。どうなってんの。
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