第36話 黒木アイの正体
「あら、奇遇です事。神崎未来(かんざき みらい)さんに常田大樹(ときだ だいき)くんですか。お久しぶり」
黒木(くろき)アイは口角をクッと上げて笑う。絶世の美人の笑顔は時としてめっちゃ怖いぞ!
「黒木さんもパソコンを買いにきたのですか?」
未来、彼女のことを知っているのか?美人同士が向き合って、因縁の対決みたいだ。
「パソコンなんてレベルの代物じゃない。これ程のスペックなら、大学だってそうそう気安く買えるものじゃない。そこそこのIT企業が使うレベルのモンスターマシンだ」
店の主が話に割り込み真顔で告げる。
「キミたち、女子高校生がこんなもので何をするつもりだ?」
「えっと、お小遣い帳の管理に」
未来はすました顔でシレっと答える。そんな言い訳ありか!どんだけ金持っているねん。俺には邪(よこしま)なこと考えたらダメだと言ったけど、絶対に未来に起こる情報を使って株とかの投資をしているでしょ。ほんとチートだよな。
「私はダイエットの記録に」
黒木さん、必要ないでしょ。ダイエットが必要な体形ちゃうし。完璧すぎるボディラインは未来と比べてもそん色ない。って、未来から来た未来はともかく、黒木さんはこんな大金をはたいて本当に何をするつもりなのだろう?
「まあ、俺は真面目なPC屋なんで金さえいただけれは、どうでもいいがな」
店の主人はお金が逃げていくのが怖いのか、早々に話を切りあげる。真面目とか嘘だよね。三人揃って大嘘つきだ。呆れてものが言えない。それにしても、未来からちょっと遅れて県立山瀬南高校に転校してきた黒木アイ。何者なんだ?聞いても答えてくれそうもないよなー。
「大樹、帰りましょう。ご主人、私が先に契約したのですから、彼女がどんな条件を出しても、納品は私が優先ですよ」
「ああ。商売のルールは守る。お急ぎなんだろ。夕方には配達するさ。何度も言うようだが俺は真面目なPC屋なもんでね。後で連絡するからそれでいいな」
店の主人の答えを聞いて、未来は頷くと俺の手を引いて足早にエレベーターに向かった。未来、怒ってないよね。こんな未来の顔をはじめて見た。
店の入っている雑居ビルを出る。未来は前だけを見て、俺の手を引きながら駅に向かってズンズンと歩いていく。やっぱり未来と黒木アイの間には何かある。単なる同級生じゃないよね。
「未来、黒木さんと知り合いなのか?」
振り向かずに未来は答える。俺の位置からは彼女の表情が伺えない。並んで歩くのが何だか怖い。
「大樹は幸田一馬(こうだ かずま)くんのスマートフォンに私と同じ美少女育成アプリのゲームをインストールしたよね」
あっ!一馬を驚かそうとした時に。萌奈美の顔そっくりになって、慌ててパラメーターをスライドして変えたやつ。そう言えば、あの時できた顔って・・・。黒木アイの顔!どこかで見たことあると思ったのはその為か。って、まさか黒木アイは未来と同じなのか。
「アプリは消去したぞ」
「それが消えていなかったの」
「そんなはずは・・・」
「ごめん。大樹、黙っていて。あのアプリは普通じゃないの。私も、黒木アイも製作者の意図とは違うAIのバグから生まれた」
「AIのバグ?」
「今はもう修正されたけど・・・」
「そっ、そうなのか」
「黒木アイ。美少女育成アプリの基本キャラクター名。設定しないと自動で決まる名前なの」
「なら、黒木さんは一馬の未来の嫁ってことか!」
萌奈美の顔が思い浮かぶ。面倒なことにならなきゃいいけど・・・。
「一馬くんは自分のスマートフォンにアプリが残っていることを知らない。黒木アイは誰にも知られずに育ったAI放置美少女だよ」
「今はやりの放置系ってやつか?」
それで、あんなにツンキャラに・・・。うーん。彼女がツンデレキャラに転身するイメージが湧かない。
「分らない。私が過ごした時代では、彼女はAIのままだった。人間になって現れるなんて予定にないの。時間の流れが変わってしまったとしか思えない。私の知らない未来になってしまう」
「未来の知らない未来?そんなことがあるのか・・・」
未来が突然立ち止まったので慌てて俺も止まる。振り向いた彼女は俺に告げた。
「大樹、私の家に来てくれる。急がないと、黒木アイが行動を起こす前に調べないと」
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