スマホアプリで俺が創った女神様そっくりの美少女が転校してきた。

坂井ひいろ

第1話 眠気がぶっ飛んだ!

 県立山瀬南高校二年八組の教室。窓から差し込む春の柔らかな日差しが心地よい。校庭の桜の木がそよ風に揺れ、花びらがぽつり、ぽつりと舞っている。俺は襲いくる眠気に耐え切れず、授業の準備もそこそこに目の前の机に突っ伏した。


 俺の名前は常田大樹(ときだ だいき)。特段、自己紹介するほどの特徴も特技も持ち合わせていない。学校の勉強もスポーツも並み。まあ、何処にでもいるありきたりな男子高校生ってところだ。


 昨日の夜、買ったばかりのスマホをいじっていて見つけた美少女育成ゲームに、思いがけずハマってしまい寝不足だった。込み上げる欠伸を噛み殺す。


 くっ。キャラの設定に無理があったか。


 どうせアプリだからと高をくくって、スペックをマックスにしたら超絶真面目女子の女神様になってしまった。卵のようなつるりとした顔、切れ長の瞳に筋の通った鼻、しっとりと艶やかな黒髪ロングヘア。完璧すぎる美少女は、一晩かけてどんなコマンドを打ち込んでも、つれない返事しか返してくれない難攻不落のキャラへと育ってしまった。


 自分で創ったゲームキャラにも愛想をつかれる俺って何なんだ。


 これがクソゲーってやつか。忌々しい。リセットして、キャラを設定し直そうとしたら、無課金は最初の一キャラのみらしい。一時間以上もかけてパラメーターをいじり、俺的にドストライクな容姿にカスタマイズして創り込んだこともあり、ムキになって攻略しようとしたのが裏目に出たか。最近の人工知能はリアルな女性よりも手強いんじゃないか。


 不意に後ろの席から背中をドンと叩かれる。


「大樹!授業始まるよ。何時まで寝てんのよ」


 俺は振り向く。ほのかに茶色がかったショートヘアの女子が子供みたいな顔して頬を膨らましてむくれている。他人が見たら可愛いと言えなくもない。が、俺にとってこいつだけは例外だ。


 彼女の名前は矢島萌奈美(やじま もなみ)。保育園からの幼なじみで腐れ縁。小学校も中学校も、そして高校まで。誰に何を頼んだわけでもいないのに、ことごとく同じクラスになる。お陰で、お互いのプライベートはまるでない。


 正直に言うと萌奈美はガキの頃から美少女だった。その上、頭も良くスポーツもできる。自慢の彼女と言いたいが、俺は小さい時からこいつと比べられて育ったため萌奈美には一切興味が無い。断言できる。今のこいつの成長を見ていると自分が惨めに思えてならない。萌奈美は俺のコンプレックスの元凶そのものだ。


「ほっといてくれないかなー。萌奈美には関係ないだろ」


「何で、大樹はいつも私ばっかり悪者みたいに言うかな。昔の大樹はそんなんじゃなかったのに」


「声がデカい。あんまり俺にかまわないで欲しいんだけど。新学年になったばかりで、新しいクラスの男子に変な誤解をされたくない」


 俺は小声で萌奈美に告げる。既に萌奈美に興味深々の新クラスの男子の視線が、俺の方へと突き刺さっているのを感じる。自由奔放、天真爛漫、ズボラでルーズ、萌奈美の残念な性格が新しいクラスに広まるまではそっとして置いて欲しい。毎度のことだが、いらぬ嫉妬に心を削られる。


 俺はこれ以上萌奈美に関わりたくないので、彼女の不満そうな顔を無視して前に向き直った。


 成程、そう言う事か。一晩もかけて、たかがスマホゲームのキャラの攻略にムキになったのは萌奈美に対する反動か。バーチャルであるが故に、完璧すぎる女神の仕様は萌奈美の残念なポイントを全てクリアしている。しかし、リアルならともかくゲームのキャラに妥協する奴なんているのだろうか。ビジュアルは恐ろしくリアルで良くできているが、先に進めないのだからクソゲーには違いない。


 朝のチャイムが鳴り、担任の橋本美弥(はしもと みや)先生が教室の入り口に現れる。新品の制服に身を包んだ女生徒が先生の後にスタスタとついてくる。俺の席からでは、長い黒髪に隠れて顔があまり見えないが、美人なのはクラスの男子の反応を見てすぐに分かった。


「えっと。みなさん。突然ですが、今日からこのクラスに新しいお友達が加わることになりました」


 前に向き直った女生徒の顔を見て俺は完全にフリーズした。難攻不落の超絶真面目女子の女神様。俺が昨晩創ったAIアプリの美少女にそっくりな女子が先生の横にたたずんでいた。俺の眠気がぶっ飛んだ!

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