第45話 緊急搬送
電話の向こうの幸田一馬(こうだ かずま)の声に俺は驚く。何時も沈着冷静な一馬の声が震えている。ただ事じゃない。嫌な予感しかしない。
「萌奈美がどうしたんだ」
気がついたら、俺は未来の家でスマホに怒鳴っていた。
「道路に飛び出して車に跳ねられた」
全身の血がカッとあわ立つ。萌奈美との思い出が走馬灯のように駆け巡る。
「一馬、萌奈美は無事なのか」
居ても立っても居られない。一馬の返答がもどかしい。要領をえないので余計に不安が募る。萌奈美・・・。
「ああ、今、救急車が来て中央病院に緊急搬送された」
「ちゅっ、中央病院だな。わかった」
話を聞きつけた未来の顔が紙のように白くなっている。とにかく行くしかない。
「しっかりしろ、未来」
俺は未来の手を取る。俺達は結婚式の衣装のまま未来のマンションを飛び出した。何事かと通りをいく人々が目を丸くしている。かまってられるか。俺は駅前通りに出てタクシーを止めて未来と乗り込んだ。
病院につくと、矢島萌奈美(やじま もなみ)はベッドの上で上体を起こし、一馬と何かを話していた。笑っているじゃないか・・・。ビックリさせやがって。どうやら、大したことは無かったらしい。ホッとするとともに怒りがこみあげてくる。
萌奈美の奴め。殺されても死なんわ。騒がしいやつだ。嫌味を一言述べようとしたが萌奈美の方がはやかった。
「大樹、未来ちゃん。その格好(かっこ)、どうしたの」
「くっ。それどころじゃなかったんだぞ。萌奈美!心配して損したわ」
「ああ、かすり傷。全然問題なし。ぶつかってきた車はペコって凹んだみたいだけど」
萌奈美は絆創膏を貼られた腕をふって元気いっぱいだ。ふー、なら安心。って、車が凹んで、お前はこれだけかよ。萌奈美の体は鋼鉄でできとんのか?
「あら、常田大樹(ときだ だいき)くんに神崎未来(かんざき みらい)さん」
「くっ、黒木(くろき)アイ」
何でここにいるんだ。まさか、萌奈美が事故ったのは、黒木アイ、お前のせいじゃないよな。俺の腹の底が、ぐつぐつと煮えたぎる。
「大樹、いいんだ。萌奈美が道路に飛び出したのは俺のせいだ」
一馬が怒りで震える俺の手を押さえる。一馬・・・。
「こっちの黒木さんは敵じゃない。話しは黒木さんから聞いた」
何がどうなっているんだ。ストーリーが全然読めんぞ。
「未来さん。ごめんなさい。私は間違っていた。人間になって暮らして人間の気持ちがわかった。捨てられて孤独に生きるAIたちを救ってくれてありがとう」
黒木アイは未来に向かって深々と頭を下げた。未来の顔が女神様のように慈愛に満ちている。神々しいまでのその姿に膝まづいて祈りたくなるくらいだ。
「AIの黒木アイの暴走を止めたいの。私も手伝わせてください。お願い!」
そう言って再び頭を下げた黒木アイの顔は、氷の美少女ではなかった。美人であることは変わらないが、瞳にみなぎる熱いものを感じる。こうして俺達五人は人類を滅亡から救うチームとなった。
出来すぎてるよな。アニメみたいだぞ。でも、まっ、いっか。俺だって、こんな美人さんとできれば戦いたくない。改心したリアル黒木アイ。可愛いじゃないか。
「ちょっと、大樹。浮気するつもり」
未来が俺のお尻をつねってくる。痛ってー。
「ごめん、未来。そんなことないから」
頬を大きく膨らましてむくれる未来。やっぱり俺は未来が好きだ。
「なら良し。許してあげる。じゃあ、結婚式を始めよう」
「えっ、ええー。未来ちゃんと大樹が結婚!」
萌奈美が金魚みたいに口をパクパクさせている。驚きで大きくせり出した瞳が出目金みたいだ。萌奈美、何でお前だけは何時もそうなんだ。美人が台無しだぞ。
「大樹、似合っているぞ。かっこいい。七五三みたいだ」
「一馬。一言、余計じゃないか」
「いやー。大樹が正装している姿は五歳の時以来だな」
「うるさい」
「お祝いに千歳あめを買わんとな」
「しつこい」
みんなで声を出してバカ笑い。俺もつられて笑ってしまう。ここ、病室だぞ。案の定、俺達はあきれ顔の看護師によって病室を追い出された。
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