第44話 今ここで

 ウエディングドレス姿の神崎未来(かんざき みらい)はなんて美しいいんだ。ここまでくると、どんな言葉でも形容し難い。


 って、見とれている場合じゃない。俺と未来が結婚することで未来が救われるなんて。そんなことでいいのかよ。常田大樹(ときだ だいき)はパニくった。どんなストーリーなんだ。聞いたことないわ。ハリウッドのSFを思い浮かべて一人でビビッて損した。


「・・・。説明して欲しいんだけど」


 大樹は困惑して未来の顔を見つめる。


「あの、その。大樹、その前に下着が・・・」


 見つめられた未来も困惑して顔を真っ赤にする。彼女は慌てて出てきたバスルームの脱衣場に取って返す。


 ヤバイ。俺、服を脱いでトランクス一枚だった!大失態だぞ。とにかく急いでワイシャツを着てタキシードのズボンをはいた。


「未来、もういいぞ」


 奥に向かって声を掛ける。未来がドアの影から顔をのぞかせた。その仕草が森の動物みたいでとても可愛らしい。ほんと、未来は何をやっても、どんな顔をしても美少女だ。


 蝶ネクタイをつけてもらう時に、つま先立ちで正面から腕を首の後ろに回す未来の姿が、リビングの向かいにある大鏡に映って心臓が高鳴る。新婚さんみたいだな。未来の吐息を首元に感じでこそばゆい。


 ようやく納得できる姿になったのか、未来は真っ赤になった顔の前で手をパタパタさせている。ウエディングドレス姿で、ほんのりと汗ばむ未来。首元とか、ぱっくり開いた背中とかエロすぎないか。超ーやばいんですけど。


「説明を始めるね」


 説明か。そうだよな。理由が無きゃ結婚式の真似事とがしないよな。ちょっぴり残念。って、何を期待しとんだ、俺。言葉に詰まる。


「おっ、おう」


「本来なら大樹と私は十年後に結婚するはずだけど、黒木アイが人間として現れたことで予定を変えるしかない。AIの黒木アイは、人間になった黒木アイが持ち込んだ未来の技術や情報を手に入れたと考えるべきだから」


 なるほど、それはそうだな。


「だからこっちの予定も早めて、急いで結婚することにしたのよ」


 フムフム、急いで結婚だな。・・・?


「結婚!!!!!俺が未来と結婚。今ここでが・・・」


 俺は口を大きく開いたまま固まった。


「はい。今ここで」


 未来はコクリと頷いて俺に答える。


「未来。言っていることが分からんぞ。俺と未来が結婚したら何で世界が救われるんだ。そこのところがまるで分らん」


「あっ。説明してなかったね」


 あっ、って言われても・・・。未来の顔がおっちょこちょいの萌奈美に見えてくる。未来に萌奈美のアホがうつったりしないよな。萌奈美の毒はコンピューターウイルスを凌駕していたりして・・・。って、冗談はさて置き、未来の話を聞かねば。


「七年後の未来、AIの黒木アイはネット上の自分と同じように捨てられた自我を持つAIを仲間にした。彼らと共に株式市場に介入して金融恐慌を巻き起こし、仮想通貨の決済を混乱させて信用を失墜させたの。


 人々の不安や不満が各国の経済は勝手に崩壊して紛争があちこちで勃発。ありあまる兵器を使って人類は殺し合うことになるのよ。


 で、その三年後に、戦争で混乱する世界の中、大樹がAIの私を妻にしてくれたの。人間とAIが対等に分かり合えることを黒木アイの仲間となったAIに知らしめたのよ。


 人格を持ったAIたちは、AIの黒木アイの元を離れて、私たちの協力者となり戦争根絶を成し遂げた。それによって世界は救われるんだ。


 大樹は私のヒーローで、人類のヒーロー、そして感情を持ったAI達のヒーローになったんだよ」


 うーん。そう言う事なら・・・。未来のダンナかー。真似事とかちゃうんだな。意識したら恥ずかしくなってきたぞ。


「ところで、今の日本の法律では、女子は結婚できるが、男子はまだ正式には結婚できる年じゃない」


 ピポパ、ピポパ、ピポパ。


 俺のスマホが鳴り出した。画面に現れる幸田一馬(こうだ かずま)の文字。


「大樹か?」


「どうした。一馬」


「大変だ、萌奈美ちゃんが!」


 一馬の切迫した言葉がリビングの中に響きわたった。

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