第7話 イケメンの秘密
マジかよ。知らなかった。よりによって学園のアイドル、幸田一馬(こうだ かずま)が、性格ブスの矢島萌奈美が好きだったなんて・・・。爆弾発言じゃんかよ。まさかその為に、三流の県立山瀬南高校を選んだりしていないよな。こんな所で衝撃の事実を知ることになろうとは・・・。
「でもな。萌奈美に近づきたいから、大樹の側にいるわけじゃないからな」
一馬の顔は真剣だ。こいつは冗談もうまいが、ここぞと言う時に誤魔化したり、嘘をつくような男じゃない。
「ああ。そんな事、言うまでもない。一馬が嘘をつくなんて思ってないから」
「大樹、今まですまん」
一馬は、平凡な俺なんかの前で深々と頭を下げた。ちっ。カッコイイぜ。頼られ男子だけのことはある。こいつの男らしさは、何時だって人を引き付ける。イケメンで勉強もスポーツも天才肌、なのに嫌味なところがまるでない。
「よしてくれ。クラスのみんなに変に思われる。変なアプリなんか入れようとした俺が悪かった」
俺は自分のよこしまな心を恥じた。一馬のスマホを使って俺と同じようなことが起きないか試そうとしていたのだ。もしかしたら、一馬のために創ったAI育成アプリの美少女が現実となって現れるかも知れない。そんな軽い気持ちだった。
「一馬にこんなアプリは似合わないな」
「ああ」
俺の問いかけに一馬は照れたようにして頷く。
「消していいか」
「そうしてくれ」
「おう」
短い会話のやり取りの後、俺はアプリのアイコンをタップしてゴミ箱に放り込んだ。ガシャガシャという乾いた音と共に一馬のスマホから、美少女育成アプリが消えた。
「なあ、大樹。お前、萌奈美のこと何とも思ってないのか?」
「別に幼なじみくらいにしか。腐れ縁だからなー」
「余りに身近過ぎて自分の気持ちに気付かないとか、あるだろ」
「萌奈美の中身は残念なポンコツだけど、顔も頭も悪くないし、スポーツだってできる。正直、小っちゃい時から比べられて育ったせいで凹んでばかりだ。小学校くらいまでは、そんなこと、考えたけど今は思い出したくもない。女子と比べられて負けっぱなしの人生はきついぞ」
「そうか」
「イケメンで万能の一馬にはわからんだろ」
「だな」
否定しないんかい。爽やかな一馬の笑みが忌々しい。ほんと、正直だなこいつ。
「なら遠慮するな。ガンガンいけ。俺はともかく、一馬なら不足なし。萌奈美の曲がった性格も少しは変化するかな。ってことだ」
「わかった。大樹にそう言われると胸のつかえが取れた。けどな、萌奈美は大樹にベタ惚れだぞ」
「毎日、ケンカしているが・・・」
「そうだな」
「てか、一方的に脅されているような」
「そうだな」
「機嫌が悪いと、何もしていないのにいきなり殴られたりもする」
「そうだな。・・・。羨ましい」
「いっ、今なんか言ったか?」
「・・・。羨ましい」
「一馬・・・。変態なのか?」
こっ、こいつ。ロリコンだけじゃないのか!
「好きな人ならどんなことだって耐えられるだろ」
「間違ってないか。それ」
俺は生まれて初めて一馬の意見を受け入れられない気持ちになった。だってそうだろ。殴られるのが羨ましいなんてやつは、典型的なマゾの特徴だ。男勝りの言動が目立つ暴力的な萌奈美は間違いなくサドだ。平気で人の背中をシャーペンでつつくし。美男美女のお似合いのカップルだと思ったが二人の未来に一抹の不安がよぎる。
「人の道を外さないように気をつけるよ。それより、神崎未来の方はどうなんだ」
すっかり忘れていた。てか、現実逃避だ。『俺が創ったスマホアプリの女神様が、人間の美少女になって転校してきた』なんて言っても誰が信じる。ゲームオタクのレッテルを貼られるならまだまし、下手すりゃ人格さえ疑われかねない。
それでも彼女は、すぐそこに実在する。萌奈美の横でクラスの女子に囲まれて楽しそうにお弁当を食べてい姿は、どう見たって幻なんかじゃない。
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