第53話 黒木アイのラブレター
僕、富山修(とみやま しゅう)は興味本位で、ぼっちの黒木(くろき)アイに話しかけてみるが、全くと言って良いほど相手にされていない。まあ、小中高と女子はだけでなく男子すら真面に会話してもらえない僕に、気の効いた話題など何一つない。
それなのに時々、彼女の視線を感じるのはなぜ?リアル黒木アイのイメージが、僕が創ったバーチャル黒木アイのイメージとかぶる。ほっとけないんだよなー。
だが、期末テストの順位発表の時に彼女はベールを脱ぎ捨てた。牛乳瓶の底のような厚メガネも、田舎臭い束ねた髪も取り払ったリアル黒木アイの姿は女神のように輝いていた。
彼女に心境の変化をもたらしたものって何だろう。僕にはわかるはずも無いんだけどね。
先生に指されてもうつむいて一言も言葉を発しない彼女の成績は、驚いたことに学年同率トップ。なんだよ!ぼっちオーラを放っていたけど、普通に学園カーストの最上位美少女じゃないか。
同情と言うか、ちょっぴり、仲間意識を抱いていた僕がバカみたいだぞ。
彼女の変身を見たクラスの男子の目の色が変わる。彼女の周りをハエのように飛び交う。げんきんな奴らだ。まあ、そうとわかれば、もう別世界の住人である黒木アイには興味もないけど。面倒なことに巻き込まれる前に退散だ。僕にはスマホのバーチャル黒木アイがいるもんな。
それから月日は流れ、秋が訪れた。絶世の美少女となったリアル黒木アイは、相変わらずミステリアスで、クラスの男子にチヤホヤされても相手にすることなく、ぼっちで過ごしている。
ところが、今、僕のポケットの中にとんでもないものが入っている。今朝、僕の下駄箱の入っていた手紙。入れ間違いかと思ったが宛名は僕、富山修、そして差出人はあろうことか、あのリアル黒木アイ。
中身は美少女育成アプリのビックイベントの定番、ラブレターってやつだ。バーチャル黒木アイから貰った時は喜びのあまり泣いてしまったが、こいつは現実だ。
そっと、ポケットに手を差し入れる。ちゃんとあるよな。授業を終えて帰り支度をしている黒木アイの後姿に目をやる。何時もと変わった様子はない。僕は落胆する。
やっぱり偽物か。
クラスの悪ガキの悪戯だよな。とうとう目を付けられてしまった。アプリの売り上げで多少の金なら持っているけど・・・。渡してしまって味を占めてつきまとわれるのも怖い。結局、お昼休みの体育館裏への呼び出しはすっぽかして正解だった。
「キミが『クマキチ』くん?」
ドキッ!誰だよ。考え事をしている時に話しかけないでくれ。って、ぼっちの僕に話しかけてくるクラスメイトなんて、今まで一人もいないんだけど。
「・・・」
本当に僕に話しかけているのか?思わず後ろを振り返ってみるが誰もいない。って、彼女は何で僕のハンドルネームを知っているんだ。彼女は僕の目を覗き込むようにして、やわらかく微笑んだ。
「私、八組の神崎未来(かんざき みらい)です」
神崎未来、春に転校して来た学園のアイドルじゃないか。黒木アイと同率一位の成績を誇る美少女。僕なんかと一生涯縁のない存在だ。
「ちょっと、話ができないかなー」
あぶっ。クラス中に注目されている。何の話か知らないが、ほとほと困るんだけど。これ以上、クラスの悪ガキたちに目を付けられたらたまらいんだけど・・・。
そんな僕の気持ちを知る由もない彼女がグッと顔を近づけ、耳元でささやく。
「美少女育成アプリを作ったのはキミだよね。私は、そのアプリのAIキャラクターから生まれたんだよ」
ぐぐっ。よりにもよってプッツン女子じゃないか。どんなに美人で頭が良くても、妄想娘じゃ残念過ぎる。ってか、何の用だよ。
「黙ってばっかりだと美少女育成アプリのことを先生にバラすから。ねっ、『クマキチ』くん」
いきなり脅しかよ。たちわりーな。学園のアイドル、神崎未来。こんな子だったのか。これだからリアリの女子は嫌いだ。
「止めてください」
「なんだ。ちゃんと喋れるんじゃん。じゃあ、OKね。ねっ、黒木さん。『クマキチ』くんがいいって」
神崎未来が黒木アイを大きな声で呼んだ。ネクラ、ボッチ、オタクの僕と美少女二人。クラス中の視線の的じゃんかよ。泣きたくなってきた。
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