第51話 クマキチゲット作戦
幼なじみの元気少女、矢島萌奈美(やじま もなみ)とイケメン幸田一馬(こうだ かずま)の二人が戻ってくる。
「一馬、ちょっとの間に随分とやつれたな」
いつもはピシッと決めている一馬の髪が跳ねまくっとるぞ。扉の向こうで何をやっとんだ。それに対して萌奈美の元気度ゲージは振り切っているじゃんか。一馬、お前、萌奈美に生体エネルギーとか吸われたりしてないよな。怖えな、萌奈美。人間やめて妖怪にでもなったんちゃうか。
「大丈夫だ。少し休めば元に戻る」
一馬はフラフラとした足取りでソファーに倒れ込んだ。
「アイちゃん。で、どうなった。気になる子でも見つかった?」
萌奈美、お前、完全に野次馬根性が丸出しだぞ。少女マンガみたいにルンルンに目が輝いている。ほんまに小学生のまんまだな。
「一馬、お疲れの所すまんが、黒木さんと同じ二年一組に富山修(とみやま しゅう)って男子がいるらしいが知っているか」
「ああ、その筋では有名らしい」
くっ。やっぱり何かあるのか。ヤクザの組長の御曹司かなにかか。そこまでは思いつかんかった。ヤバいよね。そんな奴の所に黒木さんをみすみす差し出すわけにはいくまい。
「その筋って、ヤバいやつか」
「いやっ。そうじゃなくて希代の天才ゲームプログラマーらしい。俺も詳しくは知らんが、友達からこっそり聞いた話ではスマホのゲームアプリとか作って大儲けしているらしいぞ。あっ、その友達から口止めされてたんだ。今のはここだけの話しな」
「んにゃ!」
「未来、どった!美少女の未来らしからぬ声が聞こえたぞ」
「富山修(とみやま しゅう)。思い出した。通称『クマキチ』、私と黒木さんを産んだ美少女育成AIゲームアプリの製作者だよ」
「えっ、ええー。あのゲームを作った作者が、どうして県立山瀬南高校なんてど田舎の三流高校に通っとるんだ。てか、高校生にそんなものが作れるのか?」
ようやく元気を取り戻した一馬が身を乗り出してくる。反対にややこしい話は一切受け付けない萌奈美は頭を抱えている。
「ゲーム業界はそう言うところらしいぞ。年齢とか性別も関係ない。何処に住もうがPC一つでゲームは作れるらしい。つまり、才能だけがモノを言うシビアな世界だ。
メインのプログラマーとか、キャラクターデザイナーとか、プロデューサーとか役割はあるらしいが、今どきはネット空間で仕事をするからお互いに会ったことも、顔を見たこともないらしい」
そうなの一馬。チビでデブでハゲのオッサンのイメージが勝手に頭を駆け巡る。そんなやつが『なでなで』とか『お膝で耳かき』とかゲームイベントを考えたわけ。信じられん。ってか、キモイ。信じたくない。
富山修はオタクの上を行く教祖様だったのね。世の中、広いようでめっちゃ狭くねぇ。
「で、大樹、その富山修がどうかしたか」
「黒木さんが気になる男子としてあげた奴だ」
「ほう。さすが黒木さんだな。お目が高い。なるほど、富山修に目をつけたか。クラスでは全然目立ってないらしいが、そこに注目するとはただ者じゃない」
「『クマキチ』くん。しゅごい」
くっ、黒木アイ。キャラがもの凄く変わっていないか。目がキラキラしとる。星がクルクルと回っているのは気のせいじゃないよな。
「大樹と違って奴なら生活力もばっちりだ。こりゃー、上手くいくんじゃないか。AIアプリの開発者とそのAIから生まれた黒木さん。これほどのベストマッチは他にないんじゃないか。正に運命の出会いだな」
確かにそうだが、出来すぎじゃないか。ご都合主義にもほどがあるぞ。神様は何を考えとるんじゃ。
「黒木さん。これはもう偶然なんかじゃない。必然であり、運命よ。富山修、いいえ『クマキチ』のハートを射止めて世界を変える。きっと、AIだった頃の黒木さんだって考えを変えてくれるに違いないもの」
って、ことでさっそく未来は『黒木アイ彼氏獲得作戦』から『黒木アイ、クマキチゲット作戦』にミッション名を変更した。あのー、神様。人類滅亡なんて重たい話が、こんな展開でよろしいのでしようか。俺には三流ラブコメにしか感じられんぞ。
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