2020年7月27日

 鳳仙もリモンの寝息と虫の音の静かに響く深夜、私は突然に正体不明の怒りに駆られて目が覚めた。そしてがばりと勢い良くベッドを抜け出すと、おもむろに鶏肉を一切れひっつかんで一口大に切り、それを醤油ベースのうまいタレに漬けて冷蔵庫へ。米を研ぎ、炊飯器のスイッチを入れると、軽快な音楽を流して、立ったまま、いや部屋を歩きながら本を読む。


 炊飯器のアラームがご飯が炊けたことを伝える。私は冷蔵庫から漬け込んだ鶏肉を取り出して、片栗粉と小麦粉を一対一の配分で混ぜた粉にまぶして揚げる。油のはねる軽快な音が鳴る。二度揚げをサッと行って油を切り、米を茶碗によそう。そしてアツアツの唐揚げにかぶりつく。よく味の染みた肉、外はカリカリ、中はふっくらとみずみずしく、口内はカリカリにズタズタにされ、ふっくらみずみずしい肉汁に火傷しながらハフハフと米を食う。うまい。怒りが満腹とともに混ざり合って得も言われぬ満足感へと変化していく。


 そして烏龍茶をコップ一杯、一呼吸で飲み切る。大きく息を吐くと、怒りを軸とした様々な感情がいちどきに吐き出され、残されたのは烏龍茶のスッキリとした後味だけという始末。厄介な感情の波を乗りこなして消化した輝かしい成功例。芥川なんかであれば家具を壊して命を繋いだところを唐揚げで乗り切ることができるということの証左である。そう何度も使えぬ手ではあるものの、今回は無事に成功した。ごちそうさま。


 7月28日の日が登る。曇り。道は濡れじめじめとした湿気が家のあらゆるものを腐らせていく中、私は背筋を伸ばして椅子に座っていた。香を焚く。そしてよく冷えたジャスミン茶を飲む。グラスが汗をかいて、私の手のひらを濡らす。興奮して熱くなった目を瞑ると光と闇のマーブルが渦を巻いて瞼の裏を滑っていく。一日が始まったのを感じた。

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