2020年4月20日

 インターネットのケーブルを固定していたカバーが天上から剥がれていた。その様子があまりにも無機質で哀れっぽくて、なんだか気に入ってしまった。もちろん生活の上では邪魔なのだが、すぐに直すには惜しい垂れ下がり方をしている。


 私は鳳仙と一緒に家にある古本や、椅子、飾っていない絵、使い古した蛍光灯などをそのまわりに置いてみると、果たして狙い通り廃墟っぽい雰囲気が出た。せっかくなので彩度を抑えた冷たい雰囲気で写真を撮り、その近くに折りたたみのテーブルと座布団を置いて、垂れ下がる配線カバーを眺めながら朝食を摂った。朝餉の内容はご飯、海苔、納豆、味噌汁、たけのこの煮物、焼き鮭である。飲み物はレッドブル。


 そのあと、暫くベッドで横になりながらMacBookで作業をして、夕方からはデスクトップのWindowsで音楽を流したり混ぜたりして遊んだ。じつにのっぺりとした一日の過ごし方で私らしいと思う。夜は友人と通話しながらゲームを触ったりした。


 一日が終わって再び家の中にある廃墟を訪れる。その近くに客用布団を敷いて横になってあくびをひとつ。枕元に酒を置いてたまに唇を湿らせる。ごろりと仰向けに転がると視界の左端にケーブルがぶら下がっている。こういうささやかな調和を乱すものが、日常の風景に差し込まれると、楽しくなってしまう。もう暫く直すのは置いておいて、小さな非日常を楽しもうか。私は鳳仙の頭を撫でて布団に包まる。この客用布団も非日常か。

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