2020年7月22日

 突然のブラックアウト、もしくはブルースクリーン、起動しようとすれば再起動ループに陥り寿命を思わせる、そんなPCを使っている。もう八或いは九年は使っているPCで、スペック的には今でもまあそこそこ使えるものだけれど、恐らくマザーボードもメモリも電源ユニットも相当ガタが来ていた。熱しか伝えなくなっていた水冷CPUクーラーや、出力が怪しくなっていたグラフィックボードなど、一部パーツは換装して誤魔化していたけれど、近頃は不具合の頻度が増しいよいよ危うい雰囲気になってきた。


 いい加減覚悟を決めて新しいPCを組もうと思い立ったところ、同時期から使っていたモニタの一枚も画面が点かなくなった。色々試してみたけれど、接続や出力の問題ではなく、モニタ自体が駄目になってしまった模様。お先にお陀仏。


 使っているときはこれらの道具たちが駄目になってしまうなんて思っていなかったのに、時間が経つというのはこういうことで、次々に使えなくなったり、擦り切れてしまったり、消費し尽くしてしまったりする。それが目に見えないかたちで消耗していくものだから永遠かと思っていたものもあっさりと壊れてしまったりして諸行無常を感じるという次第である。


 と、言うことで今日は新生PC用のパーツや、新しく買った4Kモニタなどを迎えたので、これらを組み立てる前に心機一転、少し部屋を整理整頓、大掃除といくかと思いたち、細々していたものを片付けたり、本を整理したり、雑巾をかけたり、カビ対策を今更するなどと色々することに決めた。


 結局昼間から始めて夜までかかったのだが、見違えるようにスッキリとして、ウチはこんなに広かったのか、などと思うのであった。特に居間や書斎などは乱雑に置かれた本をちょいと部屋の端に纏めただけとは言え(多すぎて本棚に収まらず、また本棚を増やすスペースももうない)、随分整ったように見える。


 いやはや、手に届く場所に物を配置するのもいいが、片付いて空間がスッキリするのもまた格別なものだと久方ぶりに痛感した次第である。本来私は片付いている部屋のほうを好むのだけれど、ここ数ヶ月は怠惰の限りを尽くしていたので、それが部屋に現れ、あらゆるものがそこかしこに置いてあり、それが実に効率的に写っていたものだが、その実、それは怠惰を無意識に肯定するための辯解に他ならなかった。心の乱れが部屋に現れていたとも言えよう。逆も然り、部屋の様子に引っ張られて心が整うなどあればそう願いたい。


 鳳仙やリモンのおもちゃもスッキリしたので二匹は多少不満そうではあるが、出したものを片付けるならば問題ないと伝えたところ、渋々納得したようである。結局あの二匹もものを片付ける能力はあるが、家主である私の怠惰に乗っかるようにしてそれらを怠っていたに過ぎず、畢竟責任は私にあるようであった。


 仕事を終えたような気持ちになってのんびり本を読んでいると夜も更けて、眠る時間かと思われた。急にざあざあと降り出した雨音が、読書によって少しかき混ぜられた心を気散じ、落ち着かせるような気がした。


 窓を開けると一匹のセミが入ってきて困ったが、怯える私やリモンを見て、鳳仙が程なくそれを捕まえてベランダへ逃した。私たちはホッとしてベッドに入ると間接照明を薄く点けて本を読んだ。


 ベランダではあのセミが相変わらず鳴いていて、それがもはや飛び立つ気配がないことから、ここで死を迎えようとしていることが窺われた。私の家を死に場所に選んだのだろうか。そう考えたのならば拒否する利用はないように思われた。それならば、ここで眠るといい。明日は土に埋めてやろう。


 結局、自分が眠ったからセミの鳴き声が聞こえなくなったのか、それともセミの鳴き声が聞こえなくなったから眠ったのかは覚えていない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る