2020年4月7日

 私は慢性的に脳の調子が悪いので定期的に脳の医者に行くのだが、この医者がまたなんとも嫌なやつで、何かあれば小言を言い、人格否定までしてくるようなやつだ。診察も簡単なもので、ちょいとした器具で頭部の穿穴からツンツンと突くだけであったが、そこそこ高い診断料を取られてしまう。月に一度とはいえ非常に不愉快である。


 バスから降りて帰路を歩いていると、近所の川沿いの巨大な土管のようなものが視界に入った。このあたりは川が多く、この近所の川沿いというのは以前話した川とはまた別の川で、こちらは堀のようになっており、川に降りることはできない。


 さて、この土管、昔からあるやつで、ひどく古びてはいるががっしりしており、横幅1m70cmほど、縦の長さは3m弱と非常に大きく、苔が生え、周りの植物のツタが絡みついている。小学生の時分からこれには興味をそそられているが、その土管の周りは人が通らないのか、植物が伸び放題の藪のようになっており、近寄り難く、何となく謎を感じながらも大人になってしまった。


 あの土管が何なのか調べてみてもよくわからない、このあたりは大きな防空壕なども残っているような場所だから、戦時中に何某かの理由で利用されていたという噂もあるが、判然としない。土管の近くに店を構えているクリーニング屋に話を聞いてみると、何かクリーニングに出してくれたら話すと言うので、家からニコラ・ジェスキエール時代のBALENCIAGAのコートを持ってきて丁寧に扱ってくれと心の底からお願いをしながらクリーニングに出した。


 クリーニング屋の話によるとあの土管には内側にはしごが掛かっているという。遠くからでは植物で見えづらく、近くによると高さの問題ではしごが視界に入らない。そしてはしごが内側にかかっているということは内部に入れると言うことだ。だが苔の生え具合から中に入った人間はいないようで、その先がどうなっているのかは知らないという。


 私は興味をそそられて、汚れても良い服装に着替え、その土管に向かったが近くで見ると思った以上に大きい。登ろうにも取っ掛かりがなく、登れない。樹上りのように抱きついて登るにも幅がありすぎて無理だ。結局私は諦めて帰ることにした。帰路の竹藪の道には「痴漢に注意」と「蝮に注意」の看板がかかっている。二つが並んでいるとまるで共闘して襲ってくるような恐ろしさがあるが、おそらくは双方相まみえたら互いに戦闘になるのだろうな、と思った。

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