孫呉の遺跡

長江のほとり 赤壁古戦場

 赤壁の戦いといえば、三国志の中でも有名な合戦のひとつ。2008年には豪華キャストで赤壁の戦いを舞台に大作映画「レッドクリフ」も作られた。強大な勢力を持つ魏を相手に周瑜と諸葛亮が手を結んで戦うという黄金期の少年ジャンプさながらの熱い展開が人気の理由ではないだろうか。

 赤壁の戦いが行われたとされる場所はいくつか説があるが、一番有名な「赤壁古戦場」というテーマパークへ行ってきた。巨大な門をくぐると目の前に巨大な壁が現れる。回り込んでみると赤壁の戦いを描いた豪華レリーフだ。さすがテーマパーク、序盤からテンション上がる演出がすごい!!興奮醒めやらぬまま前方へ進むと、目の前に立ちはだかる巨大な像。なんだこれは、関羽…ロボ!!?それは青龍偃月刀を手にした巨大関羽ロボだった。何を言っているのか分からないかもしれないか、本当に超合金ロボなのだ。足にはタイヤがついて今にもトランスフォームしそうな勢いだ。シャレで作ったにしては気合の入れ方がスゴイ、出来が良すぎる!!なんだろうな~これ誰得なんだ?関羽ロボが出動したら劉備は3日で三国統一できるんじゃないだろうか。

関羽ロボの背後の階段を上ると関帝廟があった。関帝廟内の関羽像はいたってまともで、思わず安心した。神様と崇めつつもトランスフォーマーみたいな関羽ロボを作ってしまうというおおらかさがスゴイ。一方では神様としても扱われる関羽だが、ここでは三国武将としての関羽なんだなとしみじみ思った。さらに階段が続く。三十六計の看板が並ぶ様はなかなか壮観!!しかも計略それぞれに三国志の逸話が書かれており、心躍る秀逸な演出。1枚1枚写真を撮ってしまうのでなかなか進めない。ようやくたどり着いた階段の先には「孔明が孫呉の知識人を相手に舌戦を繰り広げた場所」や「龐統が連環の妙計のインスピレーションを得たとされる連環古藤」、「龐統が1800年前に植えた銀杏の木」など三国志ファンを楽しませてくれる演出が続々と登場する。鳳雛庵は龐統が隠遁していた場所だ。池の中央に龐統井という井戸があり、由緒正しいものらしい。しかし、テーマパークの中の史跡は胡散臭く感じてしまうな…。龐統は三国志演義における赤壁の戦いで連環の計を用いた軍師である。曹操に船同士をつなぐよう進言したのがこの龐統だ。おかげで魏軍の大船団は大火災に見舞われることになる。この情景を映画「レッドクリフ」がダイナミックに描いている。

 続いて三国塑像園。銅像大好きな私としては期待しちゃっていいのかな!!最初に登場したのは桃園の義兄弟。3人が誓いを胸に杯を掲げる姿は三国志の始まりの象徴だ。良い面構えをしている。前に机があるようだけど、明らかになにか供物などが乗っていた後があるが、今は何もない。後ほどネットで昔の写真を見つけたが、ちゃんと石で作った供物が並べられていた。落として粉砕したのだろうか、中国の石像あるあるだ。振り返れば、剣を携えたイケメン孫権の像が!!孫権がこんなにカッコ良く見えるのはここが赤壁だからだろうか。格好良さ5割増しだ。像の前には真っ二つになった机をぜひ作って欲しい。

 石畳の広場には無残に壊れた木牛流馬。体験コーナーで押して動かしたりできたようだが、もう車輪の部分がもげてどこかに行ってしまったようだ。大陸の人々は遊びも全力投球なので、木牛流馬が耐えられなかったのだろう。修復する気もなく放り出されて切なさを禁じえない。小喬の嫁入りシーンはギリシャ彫刻の意匠をくんでいる。そして岩に赤壁の文字を刻む周瑜像。「赤壁の戦いに勝った後、周瑜は満足していないから(中略)サーブルを出して思う存分に「赤壁」という二文字を刻んだ。」と偽日本語の説明がある。日本人が全く監修しない謎の日本語が躍っているのはある意味様式美だ。

 さらに名場面、曹操英雄を語るの場面。やっと出演だ、我らが曹操!!りっぱなブロンズ像で、おそらく手には杯を持っていたはずだが、今はない。よっぱらいのパントマイムをする曹操とそれを見て対応に困る劉備みたいな構図になっている。大事な装備品だから取れないように作ってくれたらいいのに。

 気を取り直して、拝風台へ。ここはその名の通り、孔明が東南の風を呼んだ場所である。建物の中には孔明の一生ダイジェストパネルや桃園の義兄弟と孔明の塑像があった。三国志演義では諸葛亮の活躍が大きく描かれており、虚構といえやはり盛り上がる場面の一つだ。

拝風台の先には赤壁山がある。ここでいよいよあの周瑜像に出会うことができた。高さ8.58メートル(細かいな!!)の石造りの像だ。その凛々しい眼差しは長江を見つめているのだろうか。この像、説明によると湖北省博物館によるデザインとのこと。そう言われるとこの大味な像もモダンアートな雰囲気を纏い始める。そして、いよいよこれを見るために赤壁古戦場にやってきたといっても過言ではない、赤壁摩崖石刻。崖沿いに作られた階段を少し降りた場所から「赤壁」と刻まれた赤い文字を見ることができる。この文字は周瑜が刻んだとされ、長さは150センチ。もちろん周瑜が書いた文字が赤色で今ここに残っている訳はないのだが、そのような伝説の場所というだけで胸熱な浪漫があるではないか。上に白いマークが書いてあるが、これは魔よけの符号だという。赤壁に憧れて、三国志書籍で眺めた写真の風景が今目の前にある。赤壁、以外に小さいなあ。それが率直な感想だった。それでも三国志の戦場に立てたことは感動している。悠久なる長江が気だるい太陽の光を反射して輝く様はとても幻想的で、いつまでも眺めていたいと思った。

赤壁の岸壁を堪能したあとはお楽しみ、赤壁大戦陳列館へ向かう。話によるとツッコミどころ満載の展示が楽しめるという。これは楽しみすぎる♪♪浮かれながら陳列館に足を踏み入れると、期待は一気に絶望へと変わった。な、なんと絶賛工事中!!部屋は電気が落ちており、作業中の電灯であたりが照らされている。塑像のある部屋も真っ暗で見ることはできない。工事中なのに入るな危険の看板もないし、安全対策どうなってるんだ…!!いや、それよりも何でこんなに陳列館に縁が無いんだ!!合肥の張遼陳列室はお化け屋敷になってるし、三国文化陳列館も工事中だった。三国志の文化を見直そうというブームでも起きているのか??よもやここがお化け屋敷になることはないだろうが、さぞや立派にリニューアルされるに違いない…その時はまたここに戻ってこようではないか。涙をぬぐいながら赤壁文化陳列館の工事の模様をしばし見学して外に出た。

 お土産屋さんをのぞくも、品ぞろえが今一つで結局何も買わずじまいだった。ここは赤壁ですよ!!レッドクリフですよ!!三国志グッズをもっと取り扱ってくれてもいいんですよ!!日本の土産物屋をぜひ見学しに来てほしいものだ。この際赤壁って書いたペナントとか、赤壁という文字のブロンズキーホルダーでも喜んで買うよ!!…日本のダサダサなお土産のターゲットは外国人だと良く分かった。どんなにダサいキーホルダーでも現地の名称が入っていれば素敵な思い出の品になるのだ。

(2016年発行同人誌より抜粋)

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