曹操の故郷 亳州

 亳州は地元の英雄曹操に関する遺跡の宝庫だ。そしてなんと曹操の名を冠した曹操公園がある。中国での人気は今ひとつな曹操も故郷では立派な英雄として推しに推されているのは嬉しいことだ。入り口にの壁面に巨大な金文字で「曹操公園」と書かれている…これは超感激!!ここには曹操の家族墓四基(曹四孤墳)と曹操記念館があるとのこと。公園は入園無料で緑豊かな人民の憩いの場になっている。入園したのは魏武大通に面した東門から。


 敷地内には曹操記念館がある。しかし、目の前の門は固く閉ざされている。まさかの休館日?来場者いなくて潰れた…??ありえないことではない。その場合は塀を乗り越えることも辞さぬ勢いであったが、どうやら入口はこの裏側にあるらしい。建物の横を抜け、入口にまわるとそこには白く輝く曹操像が堂々とそびえ立っている。雲ひとつないさわやかな青空に白亜の曹操像が高貴に映える。その正面には大きな入り口、なるほどこちらが正門だったようだ。曹操記念館は「魏武祠」に入場して見学できるようになっている。中には曹丕、曹植に挟まれ鎮座する黄金の曹操像が祀られている。背後の壁画には曹操絵巻が描かれており、カッコイイ!!

記念館には曹操の政治・軍事・文学などの功績についての資料が展示されている。武将の紹介パネルや埃かぶったジオラマなどの展示はいささか雑な気がしないでもないが、記念館があるだけでも嬉しい。一応売店もあるが、これまたやる気ゼロというかマイナスな勢いのラインナップ。曹操と文字が入ったグッズでもあれば飛び付くのだが、そんなものは無かった。曹家の墓も4基確認し、公園を満喫した。


 曹操公園から徒歩圏内で魏武広場というこれまた強そうなネーミングの広場がある。ここには亳州出身の有名人の紹介石板が並んでいる。黒御影石に彫られたシブい夏侯惇を発見!!これはカッコいいなと思っていたら後にコーエー「三國志」のキャラクター画像のオマージュではないかと判明した。他にも三国志では夏侯淵、許褚、曹操、曹丕などが彫られている。魏軍の大物勢揃いだ。そして中央にそびえるのは立派な石碑。この石碑、実は台座で上に曹操像が乗る予定なのだそうだが…こんな立派な台座だけ作って上に乗る大事なものを作らないの!!?衝撃である。そうか、ここに曹操像が乗る予定なのか…見える、見えるよ、カッコイイ曹操像(の幻)が。もう官渡の曹操像が倒れたらここに運んでくればいいよ。でもやっぱり新作で作ってほしい。亳州がんばれ、曹操人気は日本では高いぞ!


 街が夕焼けに染まるころ、亳州駅に立ち寄った。有名な曹操像がある駅だ。像を前にすると、何かを悟ったような表情で虚空を見つめる恰幅のよいおっさんの像だった。軽く魂抜けそうになる脱力感を覚えた。荒削りな中にも前衛アートの香りを醸し出す素朴な像であった。駅前のだだっぴろいスペ―スにぽつねんとある感じが切なさを誘う。駅前にあるということは英雄であることの証だ。同じ亳州人としては人民の皆さんはやっぱり華佗の方が好きだと思うけど、駅前には曹操を設置してくれた心遣いを嬉しく思った。


 翌朝、優雅にホテルのバイキングで朝食を済ませ、向かうは「八角台」。曹操と夏侯惇、夏侯淵らが挙兵の際に血の杯で誓いを交わした場所という魏版桃園の誓い的な場所だ。ここからすべてが始まったのか…そう思うと目頭が熱くなる。ただ、事前に、八角台がゴミ捨て場になっているという予備情報は先生から得ている。それでも、信じよう、多少整備はされて…るわけはなかった。もう何がなんだか分からないこの草叢。草ボーボーとはまさにこのことだ。野良犬がうろつき、一応道らしき道があるがあたりにはゴミが散乱し、土砂が積まれ…一体ここはなんだろう。「一応あそこが台ですね」と先生が指差してくれるのだが、えっと、どのあたりかなあ…。石碑どこにいったのかなあ。草が元気いっぱい生い茂っており、全然分からない。先生が近くにいたおじいちゃんに聞いて一緒にゴミ捨て場、じゃない八角台の周囲を歩いてみたが、石碑は無くなったと…。多分、徐晃墓の例を鑑みてもわざわざ撤去はしないだろうから、この草叢の中に埋まっているのだろう。


 ああ、ロマン台無しだ。魏の桃園はゴミ捨て場だったのか…。滲む朝日の中に曹操や夏侯惇たちが杯を掲げる幻が見えた気がした。無双でも魏ストーリーの最初は曹操、夏侯惇、夏侯淵の3人、それから勢力が大きくなる、そこがいい。それを思えばゴミ捨て場にも感動できるようになりますので!!一応、陽に焼けて朽ちた看板に公園として整備予定、とあるんだけどな…。ここに曹操、夏侯惇。夏侯淵や曹仁の杯を掲げる銅像が建ったらと想像するだけで気絶するわ!!公園が整備されたらまた来ようではないか。魏武広場の曹操像と合わせて本気だしてください亳州の偉い人!!


 八角台の余韻も醒めぬまま、建安小学の角を曲がった路地の先にあるのは曹操の生家と言われる「魏武故里」。曹操ゆかりの博物館や公園は見てきたけれども、生家というのはまた特別な場所で、ここに来ることを大変楽しみにしていた。あった!ありました銀杏の木!ひと際高い木に赤い布が巻いてあり、何やらめでたげな演出が施されている。そして石碑の前には老人達がたむろしている。噂には聞いていたが、魏武故里は老人たちの憩いの場であった。石碑に近づいて写真を撮りまくっていると、すぐ前に置いてある健康マシンに座っていたおばあさんが空気を読んでどけてくれた、わざわざ日本くんだりからやってきた曹操バカのために大変申し訳ない。魏武故里の周囲は閑静な住宅街である。そうだ、曹操の家がこの辺りにあるならご近所に夏侯さんちも無かったのかなあ?もう表札だけでも夏侯があれば泣いて頬ずりするところだが、どうもそれはないようだ。


 近くに商店があったので覗いてみたが、阿瞞まんじゅうを売っているわけでもなく、何の変哲も無い雑貨店であった。銀杏の木と、石碑しかない。それが魏武故里だ。がっかりスポットと言う人もいるだろう。しかし、空に向かって伸びる銀杏の木を眺めながら、曹阿瞞(あまん)が元気に駆けまわる姿を妄想してみるといい。ここで魏の武帝が生まれ育ち、兄弟と誓いを立て、洛陽に行き、許昌を都にして、魏国の基礎を築いた。なんとも感慨深いではないか。

(2015年9月訪問 同人誌より改稿)


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