タクシー行軍こぼれ話

 中国はタクシーが安い。日本ではケチって年に3回乗るかどうかという頻度のため、下手したら人生の中で中国でタクシーに乗った方が多いんじゃないかと思う。


 鉄道駅にはタクシー乗り場があり、雨の日は特に長蛇の列。それでもピストン輸送でどんどんタクシーがやってくる。ちょっとガラの悪そうな客引きがいて、個別交渉をしている風景もよく見かける。こういうのはいわゆる白タクというやつで、現地の人でもほとんど相手にしない。


 料金は体感的に日本の1/4くらい。安いので人民の足になっている。駅のタクシー乗り場では同じ方向へ行く客がいないか大声で訊ねる光景を見る。相乗りがスタンダードらしい。魏の都許昌で駅からタクシーに乗ったときは、途中で若い兄ちゃんと、また別の女の子を拾って運転手含め他人どうし4人という謎の車内構成になったことがある。料金は割り勘になるわけではないようだ。(ちょっと割引になっているという話も聞くが?)

 中国のタクシー運転手は日本に比べて若い。にーちゃんやおっさんが普段着で運転している。女性ドライバーもいる。好きな曲をステレオで流していたり、スマホで家族と会話してるなんてこともよくある、とてもフリーダムな印象。


 面白いと思ったのは、お客さんは助手席に乗る傾向があること。日本のタクシーなら普通は後ろの席に乗る。防犯はどうなのかというと、ちゃんと運手席と後部座席の間に防護柵がついている。日本ならアクリル板だったりするが、中国ではがっしりした鉄の柵で物騒な雰囲気を演出している。中国のタクシー利用に慣れたところで地元民のような乗り方をしてみようと助手席に乗ったことがあるが、中国語ができない私はただ沈黙するしか無く、ひたすら気まずいだけだった。


 実は、海外でのひとりタクシー利用は成都が初めて。ホテルから武侯祠の隣にある錦里という観光スポットに行くために使った。初めてで、言葉もできないし、乗車中は遠回りをされないかとか、寂しい場所に連れて行かれないかドキドキし通しだった。無事に到着するまでのおよそ15分、私にとっては一世一代の大冒険だった。このときの達成感は今でも覚えている。


 海外はぼったくりタクシーに気をつけろ、と言われるが中国も油断はできない。曹操の故郷亳州では12元と出ていたメーターを降り際にクリアにされて20元請求されたことがある。同乗していたのが中国慣れした人だったので、メーター通り払って降りましょう、とさっさと降りて難を逃れた。150円程度のぼったくりではあるが、いい気分ではない。

 武漢では、駅近くのホテルに行くために駅から利用、到着したら20元と言う。なんとメーターが倒されていなかった。中国で20元も払えば結構走れるはずだし、これはおかしい!とそのときは自分でもテンパって、坊主頭の強面のおっさん運転手にうなり声を上げて意思表示したら安くなったということもある。

 もしタクシーにぼったくられてもたかが知れているかもしれない、しかし楽しい旅先で損した気分にならないためには

・メーターを倒すか確認する

・行き先までいくらか運転手に相場を聞いておく

・スマホの地図アプリを見ていることをアピールする(道を知ってるアピール)

これでぼったくりトラブルを防げる可能性がアップする。


 ちなみに一番ひどいタクシーの思い出は、上海虹橋空港から浦東空港へ移動して帰国便に乗る予定が、虹橋空港到着が4時間くらい遅れ、バスや電車では間に合わないデスレースとなり、やむなくタクシーを利用したときだった。メモに第1ターミナルと書いて読んでもらいジェスチャーでも第1よ、第1だからね、と熱烈意思表示していたにも関わらず、第2ターミナルの前で下ろされたことだ。間違えたのか、いや上海のドライバーが間違うわけはない。あれは完全に飛行機遅延で急いでいる客への嫌がらせだった。ちなみに浦東空港の第1と第2ターミナルは徒歩でも移動できるため、全力疾走して搭乗時刻ちょうどに搭乗口についたのは執念だった。


 三国志遺跡は僻地にあることも多い。そのためタクシーにはよくお世話になった。先に述べたようなトラブルもときにあるが、運転手は基本的に気さくでいい人が多い。遺跡についたら興味があるのかないのか、一緒にぶらぶらついてきたりする。廟があればちゃっかり自分も線香を買ってお参りしていたりする。


 許昌の荀彧のおじいさんを祀る八龍塚を訪問したときには、工事現場のような場所でトタンをはぐって進んでいると、振り向けば一緒にタクシー運転手のにいちゃんがついてきており、「ヒマだから来ちゃった。ここは初めて来たよ」と言いながら一緒に散策していた。

 郭嘉の故郷を訪問したときには、道沿いにある郭嘉を祀る廟が施錠されており、ガイドさんと一緒に他に何かないかと廟のまわりを探索していた。ヒマになったタクシー運転手が一緒に廟のまわりをうろうろし始めて、いい大人3人が廟の周りをぐるぐるしていたのが目立ったのか、管理人の目にとまり廟の鍵を開けてもらうことができた。

 孫堅の墓を探して田舎道をタクシーで走ったときには、農村のおっさんへの聞き込みに一緒に参加して、探すのを手伝ってくれたのは心強かった。なんだか謎の連帯感があった。


 ちょっと前は都会だと流しのタクシーがバンバン走っており、手を上げて止めるのも簡単だった。しかし、最近ではスマホの配車アプリが主流になってきており、無駄に流しで走っているタクシーは少なくなってしまった(街にもよる。)駅など主要ポイントではタクシー乗り場があって、乗りっぱぐれはないが、街中でも車通りが少ない場所ではタクシーが拾えないため余裕で遭難できてしまうと感じる。


 最後に行った中国旅行で「滴滴」という配車アプリを使ってみたが、これは便利だった。行きたい場所を指定すれば金額も明瞭だし、観光地ならすぐに車が決まって連絡がくる。このときの車は自家用車で、いわゆる白タクになるが、車種やドライバーの顔写真がきちんとアプリに登録されており、安心して使える仕組みだと感じた。


 中国の個人旅行でタクシーは安くて便利。上手に使えば快適な旅行の手助けになる。ここで注意、有名観光地ならまだしも、タクシーの運転手だからといってマイナーな三国志遺跡を知っているわけではないこと。場所が不明確な遺跡を探しに行くなら、タクシーの価格交渉(こういうときはメーターでなく一日いくらで交渉)、地元民への聞き込みスキルが必要になるので上級者向けである。


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