郭嘉故里での交流体験

 許昌の北、禹州市には郭嘉故里がある。鍾繇の故郷から長葛市から西の禹州市へガイド氏が呼んでくれたタクシーで向かった。距離は30キロ程度で田舎道を行き帰り2時間程だろうか。日本で2時間もタクシーを利用すればレンタカーでも借りた方が良かったという値段になりそうだが、大陸のタクシー価格は良心的だ。中原の地は本当にだだっ広い平野だ。麦畑が遠く地平線まで続いている。食後の腹具合もちょうど良く、半分うとうとしていた。40分ほど走っただろうか、禹州市と書いた看板が出てきた。郭嘉故里といっても一大テーマパークがある訳でもなく、ただ郭嘉を祀る廟があるだけとのこと。


 車は農村に入り、埃っぽい道を進む。車窓からぼんやり外を眺めていると、ありました!!写真で確認していた郭嘉の廟が!!Uターンしてもらい、廟の前に引き返す。路上駐車して小さな廟の前に立ってみる。表札が出ているわけでもなく、中もを覗いても何か塑像があるようだがハッキリと分からない。しかし、横に立つ木の感じや、春節の装飾の残り具合、間違いなくここが郭嘉の廟だ。


そしてやっぱり鍵がかかっている。情報によれば、1日と15日は開放されるが、それ以外は閉まっているという。今日は4日なのでかすりもしない日だ。閉まっているのは承知の上だったので、外観を見に来られただけでも良かった。そう思いながら素朴な廟の外観を激写したり、中を覗いたりしてなぜかガイド氏だけでなくタクシーの運ちゃんまで一緒に3人でうろうろしていたら、向かいの建物から怖そうなおっさんが出てきた。車を停めていたので注意されるのかと思ったら、どうやら廟の管理人らしく、鍵を持っているので開けてくれるという。な、なんという幸運!!遺跡施錠率高い私にまさかこんなミラクルが起きようとは!!3人でうろうろしていたのが功を奏したのだろうか、物好きな運ちゃんにも感謝だ。


 狭い廟の中、正面には道教の神々の塑像が置かれていたが、側面には素朴な手作り感満載の郭嘉像が鎮座していた。この村に住む子孫の方が造られたのだろうか、温かみのある優しい表情の像だった。奥には「郭氏」と書かれた石碑の上半分が立てかけられていた。その横に扇風機があるので一瞬錯覚しそうになるが、ここは物置ではない。出会えた奇跡に感謝して郭嘉像に一礼、道教の神様にもお礼を言ってささやかながらお賽銭を投入した。トタン屋根の粗末な廟ではあるが、壊さずに守っていって欲しいものだ。

この辺りは郭連郷という地名で、郭氏の子孫が今も住んでいる。そして、この管理人のいかついおっさんも郭さんらしい。郭嘉の子孫にお会いできるとは、光栄の極み!!そして、おっさん「この辺の地図を書いたんだよね」と言ってそれを見せてくれるらしく、家の中に案内された。というか、ガイド氏と運ちゃんと一緒に勝手について入った。農村の民家の中を見ることなんか初めてだったので、物珍しく、地味に感激だ。有名な観光地よりもレアなんじゃないだろうか。倉庫兼休憩スペースのあたりをごそごそ探す郭さん。見つからないようで、別の部屋をごそごそ、ついには家族に「あの地図どこだっけ?」と電話までかけている。


 そして結局、お兄さんの家にあるということでそちらに案内された。お兄さんの家はその向かい、廟の横だった。家近い。お兄さんの家の庭にかつてこの辺りの道路に立っていたという貴重な石碑の上部があるというので見せてもらった。説明が無ければおしゃれな庭のオブジェかと思うところだった。ありがたすぎる。そして、地図はお兄さんの家にあったらしく、郭さんが大判の紙を持ってやってきた。想像していたよりも力作で、思わず感嘆の溜息を漏らす。村の老人に聞いて作ったもので、昔のこの場所の地図だという。昔はこの廟の他にも建物があったそうだ。あまりの感動に思わず郭さんの手を握り、熱い握手を交わし、お礼を伝えた。ここを尋ねてくるのは日本人か台湾人くらいで、中国人はほとんど来ないのだという。日本人は間違いなく三国志好きで、台湾の人たちはおそらく郭氏の子孫だろう。もっと来てくれたらいいのに、と言われていたので郭嘉ファンの皆さんぜひお参りに来てください。

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