曹操伝説を求めてー合肥近郊小廟鎮

 合肥周辺には曹操が進軍していたこともあり、曹操に関する遺跡がいくつも存在する。中国のネット情報を頼りに合肥市中心部から西へいった小廟鎮へ遺跡探しに向かった。中国の行政区分はざっくりいうと省・市・県・村レベル、となっており、日本の都道府県の概念と逆になっている。鎮は村レベルの小規模集落。合肥市街から西へ1時間、途中新しく造られる地下鉄の工事などを眺めながらどんどん田舎道へ進んでいく。この日は天候には恵まれ、都市部を離れると少しだけ空が青くなってきた。小廟と書いてある看板が見えてきて、村のメインストリートと思われる道を進む。平屋建ての素朴な家屋がならんで人民たちものんびりした様子だ。時間の流れがゆっくりだと感じる。ちなみにネットに記載のあった曹操関連の遺跡は曹操大軍操練遺址 曹軍大営遺址 三国古戦場遺址 将軍廟 曹操河遺址 曹操上馬栓。どれだけ見つかるのかバクチでもあるが、わくわくしてやってきたのだ。

 

 ガイド氏が近くを歩いている人民に車を停めて聞いてくれる。言葉は分からないが自分も傍で聞き耳を立てる。しかし、人民の反応は微妙だ。ガイド氏の話によると、遺跡のほとんどは文革で破壊されてしまって今は残っていないらしい。でた…文革!!嗚呼、本当にもったいない。でも、曹操河はある、という話。もうひとり人民をつかまえて話を聞くが、壊されてもないよ、とのこと。しかし、薬局の主人が昔のことを知っているので聞いてみたら?と教えてくれた。なんだかRPGみたいになってきたな。


しかし、この村の知雄である薬局のおっちゃんも昔、将軍廟はあったが今は壊されてもうない、曹操河は石碑があって、この道を戻ったところだとのこと。かくして、曹操河を探して道を戻ることにした。小廟鎮の入り口まで戻り、分岐したもう一本の道を進む。3分ほどで黒い石碑が見えてきた。あった!!石碑あった!!うおおおおお嬉しい!!ダッシュで石碑に駆け寄る。曹操運河(漢墓群)と金文字で書かれている。2010年とあるからかなり新しい。石碑のまわりで大興奮する馬鹿な日本人をガイド氏はどう見つめていたのだろうか。推して知るべしだが、ところで曹操運河っていうけど石碑の後ろにあるのは池というかむしろ水溜りなんだけど。そうか、曹操運河はかつてこの地を流れ、さまざまの物資を運び町を発展させたのだろうが、1800年も経った今やこの水溜りとして残っているのみなのだろう。この水溜りが曹操運河の跡か、三国志の滅びの美、諸行無常をひしひしと感じるなあ…。

 

 ひとり三国時代に想いを馳せていたらガイド氏が「曹操運河はこっちだよ」って。水溜り関係無かった…!!石碑を後にして土手を走ると左手に河が流れている。これが曹操運河だという。あ、これか。そうなんだ。普通に今も流れている河だった。川土手を歩いてみる。この辺りは都市部から離れていることもあり、空気もきれいだ。対岸に菜の花が咲いており、のどかな風景が広がる。その向こうも広大な農地で大陸の広さを改めて実感する。ガイド氏が畑仕事をしている人民を見つけて土手下の畑の方に降りていく。自分もあぜ道を伝い、畑の方に行ってみることにした。畑の人民はまだ若く、鍬をもって土を耕していた。この人もやっぱりさまざまの遺跡は破壊されてもう残っていないと言っている。残念だが、曹操運河はあったし、きっとこの一帯が曹操大営遺址なんだし、古戦場でもあるのだろう。この壮大な平原を見渡せば、兵たちを練兵を眺める曹操の姿が浮かんでくるではないか。畑の人民に「謝謝」と言ったら、「さよなら~」って返してくれた。日本語だ!しゃべれるんだ!と驚いたらガイド氏が「それくらいわかるよ」って言ってた。まあ、私でも「謝謝」って言えるくらいだから挨拶のフレーズくらいは分かるのか。


 ちなみに昔はあったと言われる将軍廟は、てっきり曹操廟のことだと思っていたのだが、李(漢字は定かではない)という将軍を祀る廟だという。李将軍は曹操に命じられ、この運河を造ろうとしたが、やり遂げることが出来ずに処刑されてしまった。その李将軍を祀った廟だという。ううむ、釣り堀曹操なんかもあるのんきな河なのに、何とも手厳しい伝説だ。そんな曰くありの曹操運河を眺めながら土手を走る。気候が良いし、景色も緑の大地に菜の花や桃の花が咲いて素晴らしい。ここ自転車でのんびり走るのもいいなあ、ただしパンクしたときにほとんど誰も通らないし、近くに人家はないし本気で絶体絶命になるだろうけど。途中見つけた小さな廟をのぞいてみた。三国志は関係無かったが、観音さまが祀られていた。こういう廟ももしかしたら昔は三国志的な何かが祀られていたのでは、と勝手な妄想を抱いてにやにやしてしまった。背後には菜の花畑が広がっており現実離れした景観に、違う時代に迷い込んだような気分になった。その辺を馬に乗った武将が闊歩していてもおかしくないような気がしてくる。結局、小廟鎮で見つけることが出来たのは曹操運河のみであったが、自然の美しい風景はプライスレスだしここを訪問できて良かった。

(同人誌原稿より改稿)

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