三国志の世界に魅せられてー大陸の土を踏んだら沼だった

神崎あきら

運命の導き

 私が三国志を知ったのは7年前になる。コーエーのアクションゲーム真・三國無双6がきっかけだった。それまでの三国志の知識はほぼ皆無。関羽?孔明?名前の響きは聞いたことはあるけど漢字も知らない。そして、似たような名前がたくさん出てきて覚えられるわけがない。つまり、まったく興味が無かった。


 真・三國無双6を遊ぶきっかけは友人が今回は「晋」が出ているから面白いんだよ、と勧めてくれたことだった。しかし正直気が進まない。とりあえず、魏・呉・蜀というくらいだから、魏からやってみよう。キャラクターは結構好みの雰囲気で、主役っぽい「夏侯惇」でプレイし始めた。ゲームとして爽快感もあり、グラフィックも綺麗でカッコ良く、楽しさが分かってきた。キャラクターや各勢力との関係もストーリーを進めるうちにだんだんと見えてきて、これが私が初めて学ぶ三国志となった。真・三國無双6は特にストーリーが秀逸で、今思えばかなりめちゃくちゃな要素もあったが、魏のエンディングでは曹操の静かな死に涙を流すほど感情移入していた。


 ハマってしまった。


 三国志に関する入門書籍を買いあさり、漫画や映画、ドラマを観た。最初は人名、地名、官職、入り交じって難しすぎる。全然分からない、でも楽しかった。全く知らないものを知る喜びをこんないい年齢(察し)になって体験できるとは思ってもみなかった。


 当時、各地で開催されていた三国志系のイベントにも参加した。ある関西のイベントで、曹操墓へ訪問するツアーのチラシを入手した。なんと、私の一番好きな武将である曹操のお墓参りに行ける!大興奮で旅行社(大手)に申し込みをした。海外旅行は何度か経験はあるものの、中国には会社の研修旅行で一度上海に行っただけ。中国へ遺跡を見学する旅行するなんて、夢のまた夢と思っていた。そんな中でのいきなり大本命なツアーの情報、これはもう運命だと思った。三国志でも日本では人気の曹操のお墓に行けるなんて、早く申し込みをしないと申込人数が多すぎて参加できないんじゃないか、そんな心配すらしていた。


 数日経って、なしのつぶて。しびれを切らした私は旅行社へ問い合わせをした。担当者不在なので週明けに連絡する。そんな返事だった。やきもきしながら電話を待てども返事はない。やむなく再度電話をかけると担当者と話すことができた。


「人数が集まらないんです。催行不可ですね」


 まるで想像の斜め上の返事だった。え?参加申し込みが殺到してるんじゃないの?集まらないなんて・・・。ここで現実を知った。今でこそ三国志の遺跡を巡るツアーは多く出ているが、当時はそんな状況だった。


 絶望した。楽しみにしていた曹操墓ツアーが催行されないなんて。あのチラシを手にしたばかりにとんだぬか喜びとなったことを呪った。悲しくてSNSでいつか三国志の地を巡る旅行がしたい、特に曹操の本拠地許昌に行ってみたいとブツブツぶつやき続けていた。


「許昌を案内しますよ」


 突然のダイレクトメッセージだった。私のつぶやきを見た許昌在住の日本人(日本語教師、以下先生)がそんなメッセージをくれた。そんな渡りに舟に乗っていいのか、だまそうとしているんじゃないか、と当然のごとく疑った。しかし、三国志遺跡を求めて中国に行ってみたい、そんな珍妙な奴をだましてどう考えても金にはならんだろう、という結論に至った。どのように案内してもらえるのか、どうやって待ち合わせするのか、治安は?ホテルは?両替は?許昌って一体何があるの?(行きたがった割に何も知らない奴)質問攻めにも先生は丁寧に対応してくれた。


 こんな機会はないかもしれない。そして許昌へ行くこと(3泊4日)を決意した。


 ここで私のスペックだが、三国志はサブカルで学んだレベル。真・三國無双6クリア済、レッドクリフ鑑賞済、蒼天航路読破、「よくわかる三国志」とか「三国武将データベース」みたいなムック本でお勉強済程度。海外旅行は団体ツアーしか経験なし。ホテルから出たら追い剥ぎに遭うとガイドに言われたのが怖くて団体行動以外したことがない。中国の知識ほぼなし。中国語はこんにちは、ありがとう、1/2/3くらいが喋れる。


 こんな状態で、上海みたいなメジャーな大都市ではなく、なにやら中国の奥地にある許昌という街へいく。その恐怖と不安は計り知れない。中国の奥地というイメージから想像するのは竹藪、舗装されていない泥道、オート三輪に日焼けしたおっさん。今思えば完全に偏見なのだが、本気でそんなイメージを持っていた。


 中国出張の経験がある友人が、一人で行くの?正気か?許昌?は?それどこ?とまくし立ててきたのでさらに不安は募る。家族にもツアーではなく、知らない人に会って観光するなんて大丈夫かと本気で心配される。もう旅行当日を迎えて許昌に行ける楽しみどころか不安しかなかった。

 

 想像を絶する不安の中、踏んだ中原の大地。どこまでも広がる平野、とてつもない田舎の風景、ニーハオトイレの洗礼、何もかもが衝撃の連続だった。畑の中に三国志の武将名が書かれた石碑があり、博物館には三国時代の出土品が並ぶ。ああ、まぎれもなく1800年前にここで彼らは生きていたんだ。感動に震えた。中国人の学生さんとの交流の機会もあり、これまで生きていてまさに信じられない体験の連続だった。


 私の中で中国のイメージが変わった。正直日本に暮らしていると中国のろくでもないニュースばかりに触れてしまう。それに全く影響されないのは難しいことだった。もちろん、実際に衛生面やマナーなど中国式洗礼を受けることはある。実際に触れた中国は、田舎はとことん田舎だが都会はどえらい都会。人々のおおらかさはずば抜けている。心躍る三国志遺跡がたくさんある。そして食べ物が美味しい。


 三国志遺跡を巡る中国旅行にハマった。以来毎年遺跡巡りのプチ旅行に出かけている。もう沼だった。トンデモなハプニングは多いけど、それを超える楽しさがある。そして、三国志との出会いや先生との出会いにも感謝している。願って、行動すれば夢が叶う。そう思わずにはいられない。


 今、中国だけでなく日本国内旅行さえも行けないこのつらい時期に、ふと旅を始めたときの驚きや感動、そしてちょっとスリルを思い出したのでここに書き綴った。

 


 




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