夕暮れの周瑜城址

 舒城へ向けてここからまた田舎道を走る。車窓を流れゆく菜の花が咲き乱れる素朴な農村風景は、いつまで眺めていても飽きない。舒城界の看板を過ぎ、小さな町に入っていく。

 街には周瑜城と名のついた店がいくつかあって、また胸が躍る。街中で武将の名前を見つけるのは楽しい。店の名前になっているくらいなので周瑜はやっぱり人気があるんじゃないかな。曹操の故郷、亳州など曹操酒店とか曹操菜館とかあっても良さそうなのにそんなものはなかったよ。


 町はずれに差し掛かり、ガイドがこの辺に周瑜城がある、と言っている。舗装されていない田舎道を進むが、どこにあるのかはっきりしないらしい。それもそのはず観光客をこんなところに連れてこないよって言ってた。

 そりゃそうだろうな、三国志好きな遺跡ハンターなら自分でここまで来ちゃうし、ガイドまで雇うような観光客がこんな場所には来ないだろう。しかし、無事に見つかるのだろうか、周瑜城は自転車やの名前だったなんてオチじゃないだろうな…。ガイドが道行く地元民に道を聞いている。


 どうやら行きすぎたらしい。狭いあぜ道で車をUターンし、来た道を引き返す。そしたらあった!!石碑があった!!ここさっき通ったじゃん…。人間の目って見えてないもんだ。こういうものがあるって分かって探すのと知らずに見るのとでは大違いだ。

 かくして無事に周瑜城の石碑を発見あおしてなんじゃこりゃ、古い石碑をそのままに新しい石碑を前に建てとるがな!徐晃墓の石碑を思い出した…あれも相当ひどかったけどな。まだ古い方も建ってるだけマシなのか。裏面の記載を見てみると、古い方だけ記載があった。


 う~ん、裏側は古い方を見ろよってことなのか。なんだそれ。ここは周瑜が孫策に付き従って挙兵した場所、と書いてある(と思う)同年代の若者が戦乱の世に志を高く掲げた場所なんだな。

 小道を進むと先ほど見た公園の立派な像には遠く及ばない控え目な周瑜の胸像が見えてきた。ああ、何もない。ただの原っぱだ。向こうに咲く菜の花が風に揺れている。

 おばちゃんが一人畑の世話をしているのみ。


 夕暮れ迫る周瑜城址はどこか切ない郷愁を感じさせる。像の近くには朽ち果てた石版が埋もれていた。そうか、あの新しいのは実は3つ目だったのか…。武勇を競った英雄たちが次々に散っていき、三国がついに統一されなったことに思いを馳せると、この静かな農村の風景がとても切なく感じた。


 三国志には滅びの美があるのだと思う。諸行無常の虚しさが胸に染みいる。結末を知りながらも、それぞれの志を抱き乱世を駆け抜ける英雄達は魅力的なのだ。真・三国無双6をプレイして英雄達の最期に涙して、また魏軍黄巾の乱から始めると武将たちの生きざまがより重みを増す。彼らは年老いていき、やがて死ぬ。限りある命を燃やす姿がたまらなく人間的で魅力的に映るのだろう。

 

 つわものどもが夢の跡、そんな言葉が頭を過った。観光地よりもこういう遺跡の方がグッとくる。何もない、誰もいない。それが良い。でも石碑や石像や土盛りは好きなので歓迎だ。周瑜城、ここに来ることができて本当に良かった。

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三国志の世界に魅せられてー大陸の土を踏んだら沼だった 神崎あきら @akatuki_kz

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