マッサージ店の誘惑

 最初にお断りしておくのだが、マッサージ店といってもエロい店を想像しないで欲しい。私はデスクワークと運動不足からどうしても重度の肩こりが常態化している。運動すればいいじゃない、と言われそうだがなかなか習慣ができない。そこでマッサージにより強制的にこりをほぐすことになる。


 なぜ唐突にマッサージなのかというと、私の中でマッサージの起源は中国なのだ。語弊があるので説明すると、三国志のことを1ミリも知らないし、中国にミジンコほども興味が無かった頃、職場の出張で上海へ行った。中国通の同行者がホテルの近くのマッサージ店へ行くという。薄暗いし、怖そうだけどものは試しとついていった。


 そこはいわゆる盲人按摩というやつで、視力に障害がある方がマッサージをしている店だった。当時中国を知らない私は随分アングラな店だなあと思ったものだが、こういった店は普通に街中にあることは後ほど知った。当時、もう10年以上も前になるが、1000円札一枚で1時間という破格だった。今はもう上海でそんな値段で受けられるところは少ないだろう。そして腕のほどは、当時の思い出美化もあるかもしれないが、衝撃の技だった。ツボにバシバシヒットするし、圧力もすごい。最後には天井にあるポールに掴まった施術師が背中の上でステップを踏むという技を披露。何がなんだかわからないが、すごかった。


 それから、年を重ねるにつれマッサージを欲する頻度は高くなり、旅先だけでなく日本でも時々チェーン店に行くことがある。しかし、中国4000年のマッサージ術には敵わない。日本人の店はとても丁寧なのだが、手数が違う。あと、クレームを恐れてむちゃくちゃな力を入れないので、なんだか効いた気がしないのだ。


 中国のマッサージ店は正直かなり雑。でも手数が多いので、ツボをちゃんと押してくれる。私は剛力が好きなので容赦ない圧力がわりと気持ち良い。値段は日本の2/3くらいが相場。


 三国志遺跡巡りはとにかく歩く。車で乗り付けてもその先を歩くことも多いので、本当に足が疲れる。三国志遺跡に限った話ではないが、中国は国土が広いので観光地も歩く距離が長い。一度適当に地図を見て訪問したら距離の目分量を間違っており、20キロほど歩く羽目になったことがある。(というか、地図を目分量で見るなよ)


 そういうわけで、遺跡巡りの後にはマッサージ店へ駆け込みたくなる。足ダメージ回復が翌日の活力の鍵になるのだ。マッサージ店は街中を見渡せば結構な数ある。足浴とか健身、按摩がキーワード。店の雰囲気はピンキリで、ガラスごしに施術が丸見えの気軽な店もあれば、個室タイプもある。これまで体験したマッサージ店の話をいくつか。


 高級すぎてびびった店。成都でガイドさんおすすめのマッサージ店に連れていってもらった。値段は日本と変わらないくらいなので中国では高級店の部類だと思う。もちろん個室タイプ。部屋に通されたらなんと畳?だったと思うが10畳くらいの和室ぽいつくりに、ふとんがしいてあった。普通は狭い部屋にリクライニングチェアが並んでいるのがこれまで見た一般的な店だったのでこの部屋にびっくりした。

 和室にふとん、このままここに宿泊できるんじゃないかという雰囲気だ。施術師も対応が丁寧で恐縮してしまった。疲れてるのにふとんに寝かされて優しくマッサージを受ける・・・寝るなという方が無理だ。このときは睡魔との激しい戦いのためにマッサージがどうだったか記憶がない。


 てきとう過ぎてびびった店。赤壁古戦場へ行くため、赤壁市のホテルに宿泊したときに行った店。ホテル周辺は結構な田舎で、庶民的な商店が並ぶような通りだった。その中でマッサージ店があったので、中国語がわかる友人とともに一緒に入ってもらった。日本なら注意文を読んでサイン、整えた施術台へどうぞ、と案内されるところだが、その店に入ったとたんひまそうなオヤジがはいはいどーぞどーぞ!というすごい勢いではやくも施術台の上に転がされた。そのままいきなり始まるマッサージ。展開早え!!そういえば値段やコースは??そんな説明一切なし!

 豪腕で手数が多い。横にいる暇つぶしでいるだけのおっさんと大声でずっと会話している。ああ、この感じ、中国だ・・・。

 終わったときに靴を履こうとしたら、おっさんが施術台の周りをぐるぐるしているうちに遠くに蹴り飛ばされていた。なんという適当さ。そして値段は約800円、安っ!!この店のマッサージ体験はある意味忘れられない。


 路上マッサージを体験したことがある。ハルビンの師大夜市という屋台街で歩道に椅子や台に毛布をかけただけの場を作ってマッサージをしてくれるというもの。20分で10元くらいだったかな、とにかく安い。さすがに簡易ベッドではあるが道ばたで横になりたくないので椅子に座るタイプでお願いした。これがまたおばちゃんの施術がうまい。あっというまの至極の20分だった。こういうところでお小遣い稼ぎなのだろうが対応する人数が多いので、百戦錬磨なのかもしれない。この後もお客がそこそこ利用していたし、そういうことなのだろう。


 上海の朱家角古鎮を訪問したときだ。地下鉄駅が開通して良かったが、駅から観光地までが意外と遠い。古鎮をまわって足が疲れてふと見れば値段がお手頃な庶民的な店を見つけた。ガラス張りで何人かお客もいることから善良な店ということで大丈夫だろうと踏んで入った。リクライニングチェアに座らされ、足湯から始まる。適当にもんでもらったところでピーリングをするかと聞かれた。足裏の角質を取るやつだ。万一足の皮がけずれて血が出ると怖いこともあり、「不要」と断った、のに若いにいちゃんが無理矢理勧めてくる。かなり強引で困ってしまった。正面のおっさん客を指さすので見たら、足元に白いもの・・・??盛り塩みたいな山が15㎝くらい積まれている。え、あれ角質!?あんなに取れるのか・・・おっさんの身長3センチくらい縮むんじゃないかと心配になった。しかし自分もやってみたくなった。これがすこぶる良かった。にいちゃんはとても上手で、私の足の皮は10㎝弱の山になった。帰国してしばらくはかかとすべすべのつるつる。角質取り、また体験したい。


 最後に諸葛亮ゆかりの地、襄陽のホテルでの恐怖体験を。宿泊したホテルは星4つで、外からの見た目もごく普通、ホテルの中にマッサージ店があるという。そういうホテルはよくあるので、外に探しにいかなくていいや、ラッキー!と利用しにいってみると、店員に不思議そうな顔をされる。「按摩できますか?」と片言で言えば部屋に案内されたのだが、接客のおねえちゃんのスカートがえらく短い。なんだか変な店だなと思いながら部屋に入ると、一面ブルーライトの怪しい光の中、白いサテンのベッドが置いてあり、その向こうにはあきらかにエロいポスターが壁一面に張ってある。なんじゃこりゃあ!!と叫びたいのを我慢して、メニューがあるか聞くだけ聞いた(このとき正気を失っていた)。メニュー表をみればどうも割高で、完全にイケナイお店だった。やっぱりいいです~と逃げ出すように去った。これは怖すぎた。


 いろいろあるけど、中国のマッサージ屋さん、大好きです。

 







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