22(改)
「ええ。どうぞ、以後お見知りおきを」
マリナは突然のことに戸惑いつつも、ずいっと目の前に差し出された花束を受け取って、「ありがとうございます」と唇を綻ばせる。
しかし、それも一瞬のこと。すぐに頬を引き締めると、鋭い視線をレティーツィアへと向けた。
「――そちらは」
大きなチョコレート色の瞳に、凶暴な光が宿る。
「もう一生見たくなかった顔ですね」
『そうでしょうね』などと言うわけにもいかず、レティーツィアは軽く頭を下げた。
「お久しぶりです。マリナ・グレイフォードさん」
「……さすがとしか言いようがありませんね。もう引っかけたわけですか」
挨拶する気にもなれないのだろう。レティーツィアの言葉は完全に無視して、嫌悪とも侮蔑ともつかない表情を浮かべて、吐き棄てるように言う。
(もう引っかけた……か……)
その言いように、確信を深める。
「ええ、マリナさん。実は、そのことについてお話をしたくて」
「……!」
マリナがピクリと身と震わせる。
そして、レティーツィアを探るように見つめて――ドアを大きく開けた。
「どうぞ」
「っ……ありがとう……!」
門前払いされるだろうと思っていたため、部屋に入れてもらえることにホッとして――同時に、心臓が緊張に早鐘を打ち出す。
両手で胸を押さえて隣を見ると、視線に気づいたイアンが「よかったね」と目を細めた。
「じゃあ、レティちゃん、俺は奥の角部屋で待ってるね。そこがサーシャの部屋なんだ。さすがに、未婚の女性の部屋にズカズカと入るわけにはいかないから」
「はい、ありがとうございました。イアンさま」
心から感謝をしながら深々と頭を下げて、マリナの部屋に入る。
二人部屋なのだろう。部屋の両側にシングルベッドが。ベッドの奥にはクローゼット。二台のクローゼットに挟まれる形で、窓際に二つの勉強机が並んでいる。
シンプルでナチュラルな木製家具に、明るいモスグリーンで統一されたファブリック類。装飾品はほとんどないながら、爽やかで女の子らしい部屋だった。
マリナがドアを閉め、扉越しに廊下の様子を窺う。イアンの足音が遠ざかってゆくのをしっかり確認してから、レティーツィアを見つめた。
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