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 それではまるで、セルヴァが『暗殺』という裏の力を積極的に使っていたかのようだ。しかし、そうではないだろう。たしかゲームの設定では、セルヴァ暗殺の任務に失敗して捕らえられたノクスを、狙われたセルヴァ自身が、「雇い主のところに戻ったところで、しくじったうえに捕らえられて顔を知られてしまった君は、組織に消されるだけだろう?それならばその力、僕のために使ってみないかい?」と勧誘したとなっていたはずだ。


『暗殺』という能力がほしかったというよりは、闇の世界で人知れず消されるだけだったノクスを助けたというニュアンスで――だからこそノクスはセルヴァに誠の忠誠を誓っているのだと。


「イアンさま? あの、それは……」


「言いすぎだと思う? ざ~んね~ん! これ、本当に本当なんだよね。たとえばさぁ、リヒト殿下が推し進める改革に、保守派の家臣が猛反対したとして――従者のイザークはどうする? 政治の世界から追い出す? 二度と反抗なんてできないように潰す?」


「まさか! そんなことありえませんわ!」


 反対意見を力で押さえつけるような愚かな真似を、あのイザークがするはずもないし、そもそもリヒトがそれを許しはしない。


「それがよい結果を生むことなどありえないことぐらい、イザークはわかっていますし、リヒト殿下も、そんな愚かな行為を一度でもした人間を傍に置くなどありえませんわ」


「でしょ? それは絶対にやっちゃいけないことだよね? でも、セルヴァはしちゃう。正確には、ノクスがやるのを黙認しちゃうんだ」


「そんな……」


「セルヴァは、ノクスが暗殺者としての手段で対立者を二度とセルヴァの邪魔ができなくなるようなめにあわせても『ノクスが自分のことを考えてやってくれた』って笑うんだ。あまつさえ、ノクスに『ありがとう』って言えちゃうんだよ」


 そんなわけがない。そう言おうとして――しかしその瞬間、かつてのセルヴァの言葉を思い出す。


『主人に危険が迫った時、主人の盾となり、その身を挺して主を守るのが、アーシムだ。ノクスは主人の剣となり、その危険をいち早く排除する。僕の知らないところでね』


 それは、ゲームのとおりの台詞だった。


『僕のためなら、喜んで闇に生きる暗殺者になる。それがノクスだ。だから、いいんだよ。姿を消すのは。姿を消している間も、彼が僕のために動いているのだから』


「っ……!」


 思わず、手で口もとを覆う。


『ノクスはセルヴァの身を守るために暗躍する』という意味の言葉だと思っていた。いや、その時はたしかに、彼はそういうつもりで言っていたのだろう。

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